第3次・生物多様性国家戦略・行動計画案
野生生物の保護と管理に関する事項についての意見
2007年10月2日
地球生物会議ALIVE 代表 野上ふさ子
第1節 野生生物の保護と管理
1,絶滅のおそれのある種の保存(p.189)
1.3生息地外保全(P.192)
(現状と課題)
野生生物の保全はあくまでその生息地で行うこと、それが不可能な場合でもできるだけその近くの場所・地域で行うことが優先されることを明記するべきです。数頭を本来の生息環境から引き離し人工的で狭い囲いの中に閉じこめるなどして飼育下で繁殖させた個体は、動物の本来の習性や行動形態を失い、野生復帰は非常に困難となります。また、生息地外保全には多大な費用と労力、時間がかかります。費用対効果の観点からも、可能な限り生息地内保全が優先されるべきです。
さらに、日本の大多数の動物園では環境教育や種の保存に対処できないという現状があり、もしそれらの役割を期待するのであれば、動物園法を制定し、動物園の定義や社会的役割を公的に定める必要があります。
2.野生鳥獣の保護管理(P.193)
(施策の概要)
(1)狩猟依存について
「鳥獣保護管理の担い手となる狩猟者の確保を図る」とありますが、この10年の経過で狩猟者依存の被害対策が限界にきていることは明らかです。鳥獣害対策すなわち駆除という図式に偏ることなく、地域の環境条件や社会的状況等も総合的に判断しながら、被害防除の技術開発に取り組むことが必要です。また、NGO側はからは常に総合的保護管理を実施する人材育成の必要性という代替案が出されています。
(2)地域個体群について
ツキノワグマやニホンザルなどでは、孤立した地域個体群についての捕獲の総量規制が必要です。また、とりわけ、保護の必要性が最も高い四国のツキノワグマ個体群の保全の考え方を明記すべきです。
(3)違法捕獲について
行政、狩猟者、農家の間で違法捕獲があとを断ちません。捕獲の許可権限が市町村に委譲されたことにより、鳥獣の適正な保護管理が現場レベルでますます困難となっている現状があり、法律の周知徹底と一般への啓発普及をすすめる必要があります。また、違法捕獲個体は解放しなければならないことを明記するべきです。
<参照>生物多様性国家戦略における鳥獣の保護管理の記述
■第1次戦略「狩猟が野生鳥獣の生息数コントロールに一定の役割を果たしているところから狩猟の適正な管理を進める」(『多様な生物との共生をめざして』P.38)
■第2次戦略「狩猟が野生鳥獣の生息数コントロールに一定の役割を果たしているところから、担い手となる狩猟者の確保を図るとともに、狩猟の適正な管理を進める」(『新生物多様性国家戦略』P.187)
■第3次戦略案「狩猟が野生鳥獣の生息数コントロールに一定の役割を果たしているところから、保護管理の担い手となる狩猟者の確保を図るとともに、狩猟の適正な管理を進める」(行動計画案 P.116)
2.1 鳥獣保護区の指定と管理(P.194)
(具体的施策)
○鳥獣保護区の指定にあたり、「多様な生態系や生物群集のタイプが含まれるような指定に努めます」と記されていますが、この内容は鳥獣保護区の範囲を超えているものです。野生生物全体を含む生物多様性保護区のような新た保護区の概念が必要です。
○沿岸・海洋域における海鳥類の重要な繁殖地を保護区の指定に努めることに加えて、ジュゴン等の海洋哺乳類のエサ場や繁殖地の指定にも努めるべきです。
2.2 野生鳥獣の捕獲の規制(P.195)
(現状と課題)
「鳥獣を資源利用や趣味として捕獲するだけでなく、鳥獣の個体数調整の手段としても重要な狩猟」という記述に従えば、「狩猟を活用した鳥獣の適切な保護管理を進める」という結論には結びつきません。
現代における狩猟は、主にスポーツや趣味として鳥獣を捕獲しその肉を食する等のために行われているものです。鳥獣を捕獲するという限りにおいて、鳥獣の個体数調整に資する役割も果たしていますが、狩猟は本来、個人の自由に基づく行為であり、科学的根拠に基づく総合的な保護管理制度に直接結びつくものではありません。捕獲の技術者と狩猟者をことさら混同してし、いつまでも狩猟者依存の施策しかないかのように主張することは、鳥獣害問題の解決を遅らせるばかりです。
そもそも、鳥獣害は、単に捕獲すれば解決する問題だという認識に間違いがあります。生息地管理、被害防除、個体数調整に加えてその地域の社会的・経済的条件等に応じて実施する総合的保護管理対策を行うことが必要であり、そのためには、ワイルドライフマネージメントの制度及びそれを支える人材の育成が必須です。
(具体的施策)
○ 「鳥獣によって被害を受けている農家自らによるわなを用いた鳥獣の捕獲を推進するため、網・わな猟免許を分離して創設した編猟免許・わな免許の制度を活用して、鳥獣の保護管理の担い手の保に努めます」ではなく、「生物学、生態学等に加えて社会学的な知識や訓練に基づくワイルドライフマネージメントの制度及びそれを支える人材の育成に努めます」とするべきです。
○ わなの使用の促進は、必ず、人身事故や錯誤捕獲や混獲を増大させます。わなに標識の設置の義務づけがあること、錯誤捕獲の場合は速やかに解放すること、絶滅のおそれのある地域個体群の生息域ではくくりわな、とらばさみの使用を禁止することの周知徹底をはかるべきです。
【事例】2007年10月13日 日本農業新聞
東大阪市でイノシシ捕獲用のくくりわなに中学生かかりけが。標識も看板もなく違法。
2,3 科学的・計画的保護管理(P.196)
(現状と課題)
「科学的・計画的保護管理」の意味するところが明らかではありません。科学は、仮説を実証しながら真実に到達しようとする行為であり、そのためには常に正確なデータを取り、実施結果のモニタリングを行い、それに応じて実施方法を変更していく過程を含んでいます。しかし、保護管理の主体を狩猟者依存としているために、モニタリングもフィードバックも単なる言葉のみに終始し、いつまでたっても科学的保護管理の手法が確立されないのが現状です。
さらに、地方分権一括法の施行で鳥獣の捕獲の許可権限が都道府県から市町村に委譲されたことにより、都道府県が市町村における捕獲の実態を把握できなくなっている側面があります。
【事例】:2006年11月、鹿児島県南大隅町におけるニホンザルの大量捕獲が県に報告されていなかった件についての鹿児島県の見解。
「サルの有害鳥獣捕獲許可に係る一連の事務については,その権限を県から市町村に委譲しており,『鳥獣保護法第9条第12項』に規定する『許可に係る捕獲等の結果を県に報告』を行う事務はありません。」
捕獲の実数を正確に把握することは鳥獣保護法の根幹です。市町村から県への報告をしなくてもよいということは、捕獲の実数も把握できないということで、科学的計画的な保護管理そのものが成立しません。
(具体的施策)
○市町村に捕獲の権限が委譲されたことにより、市町村における野生鳥獣の保護管理の責務も重くなっています。市町村においても、専門家のアドバイス及び地域住民の参加を求めながら、野生鳥獣の保護管理に取り組む必要があります。また被害実態の正確な把握および捕獲数を県に報告する責務があります。
○特定計画技術マニュアルの改訂にあたっては、一部の専門家の見解に偏らず、従来の計画における十分なデータの集積と分析を行い、地域の環境要因や社会的な要因も考慮し、幅広い関係者の知恵と経験を集めて作成にあたるものとするべきです。
2.4 野生鳥獣の生息状況等の調査・研究(P.198)
(現状と課題)
『鳥獣関係統計』については、市町村の統計が1年に1回年度末を過ぎてから集計され、それをさらに次年度末までに都道府県が集計するので、国の統計は2?3年遅れとなってしまっています。これでは、迅速な実態把握と対応に支障をきたします。また、市町村からの報告義務がないために、未報告ないし報告された数値の実数をチェックする仕組みもありません。
それに加えて、捕獲の許可権限が市町村に委譲されて以来、県では鳥獣の保護管理に関する必要な情報を収集しなくなり、それに基づく調査や分析も不可能となる場合が多くなっています。特定鳥獣保護管理計画を立てることにより、都道府県レベルでの総量規制を行えるようにすることが意図されていましたが、実際はほとんど機能しておらず、単なる個体数調整の実施計画の観を呈しています。実施後の基本的なデータの集積と分析、評価もほとんど行われていないという現状です。
2002年の鳥獣保護法改正でアザラシなど一部の海棲哺乳類を保護対象種に指定しましたが、ラッコ、オットセイ、イルカ、クジラ類はまだ保護の対象とされていません。海棲哺乳類の生息状況および捕獲の実態調査および対象種への指定が急がれます。
(具体的施策)
○市町村における捕獲情報は少なくとも月ごとに都道府県に報告することを義務付け、国は常に全レベルでの最新の情報を入手するように努めるものとすべきです。
○特定計画においては、市町村の役割を定め、実施報告を義務づけるべきです。また、データは検討委員会あるいは大学研究機関等に委託して事業報告書を作成することや、計画策定にかかわる検討委員会は、計画の実施状況の報告を受け、点検や評価においても関与するべきです。
2.5 違法捕獲の防止など(P.199)
(現状と課題)
ニホンザルの違法捕獲があとを絶ちません。行政においても誤った捕獲や誤った処分方法をとらないように法律、指針等の周知徹底を図る必要があります。
【事例】:鹿児島県内の町が捕獲後の処置を「埋設」として許可を出していながら、実際は自らに飼養許可を出し、県外の実験業者に譲渡していた。
鳥獣保護担当職員の研修を強化し専門職化をはかること、司法警察権を活用すること。また、鳥獣保護員の中に常勤職を設けること、公募などによって幅広く人材を確保することにより、鳥獣保護法の周知徹底及び違法捕獲の取り締まりを強化するべきです。
2.8 鳥インフルエンザ(P.200)
この項は、鳥インフルエンザに限定することなく「感染症」全般を対象とするべきです。この数年でも、国内外で、サルモネラ菌、西ナイルウイルス、SARS、サル痘、狂犬病など人と動物の共通感染症が発生しています。また、カエルツボカビ病など野生動物における感染症も問題となっています。
(現状と課題)
鳥インフルエンザの他にも、人間ー家畜・ペットー野生動物の間を移動して病原性を発現する細菌やウイルスは他にも数多く存在します。国際的な物流とともにさまざまな病原体も運ばれていくため、いつ何時予期せぬ感染症が発生しないとも限りません。発生の予防と発生時における速やかな対処のために、情報の収集と監視体制が必要となっています。
3.生態系を攪乱する要因への対応(P.201)
3.1 外来種など
この3項は、3.1を「外来種等」とし、3.2を「遺伝子組換え生物等」とに分けて記述するべきです。また、現3.2の「非生物的要因」(P.204)は、非常に大きな課題であるので、「化学物質等」として別途、記述するべきです。
(現状と課題)(具体的施策)
日本は世界有数の野生動物輸入大国ですが、特定外来生物法における種の指定は、生態系への害性が証明された種しか輸入禁止できないブラックリスト方式であるため、極めて限られた種しか指定されていません。これをホワイトリスト方式にして、生態系への害性がないことを証明された種のみが輸入許可を得られるようにすることで、大幅な予防効果をあげることができます。
また、沖縄、奄美、小笠原などの島嶼地域では外来生物による生態系攪乱の脅威が深刻です。島嶼地域に限定して「国内外来生物」の移動を制限する措置が必要です。
現在、生物科学の分野における遺伝子組換え実験が広範囲に行われていますが、カルタヘナ法に基づく遺伝子組換え生物等の第2種使用施設について、国はその実態を把握できていない状態です。施設の届出に関して、施設の所在地や施設数、主な生物種、実験内容等についてのデータベース化をはかる等により実態を把握する必要があります。
また、カルタヘナ法違反事例が続出しており、遺伝子組換え生物の拡散防止措置の義務についてさらなる周知徹底を図る必要があります。
【事例】カルタヘナ法に関しての質問主意書。
第164国会・提出番号79「独立行政法人産業技術総合研究等における動物実験施設に関する質問主意書」
4.動物の愛護と適正な管理(P.206)
(施策の概要)
動物取扱業に対して社会的な責任を担わせるために1999年の動物愛護法の改正で届け出制となり、2005年の改正で登録制となりましたが、さらに5年後の見直しでは許可制も検討されることになっています。
また、2005年の改正で、動物の飼い主は動物由来の感染症の予防に注意を払うことが定められ、感染症対策の強化が必要となっています。
4.1 動物の適正飼養の推進
(現状と課題)
動物取扱業が登録制となり、基準の遵守義務が定められていることがまだ国民に広く周知されていません。とりわけインターネットによる通信販売が急増しており、さまざまな野生動物がオークションなどでも販売されています。動物取扱業の遵守基準の周知徹底及び動物取扱責任者のレベルの向上を図ることが必要です。とりわけ、野生動物をペットや実験動物として輸入、販売する業者においては、希少動物の保護の重要性、感染症の対策、外来生物による生態系への悪影響について認識するとともに、顧客に対しても知識の普及を図る必要があります。
両生類を死滅させるおそれのあるカエルのツボカビ菌が、日本ではペットおよび実験動物で確認されています。動物取扱業や実験動物施設等における感染症対策についての強化が必要です。人と動物の間の感染症のみならず、生態系に悪影響を及ぼす野生動物間の感染症の対策にも注意を払う必要があります。
一方、医療、畜産、養殖等における抗生物質の乱用が、環境中に耐性菌を作りだして、すでに多くの野生動物が耐性菌に汚染されています。人間?家畜・ペット?野生動物の間で微生物が移動して突然変異を起こし、新たな病原菌が発生するおそれもあります。抗生物質の乱用に歯止めをかけるべきです。
(具体的施策)
○ インターネットによる動物の通信販売業者に対して、動物取扱業の登録および登録票(標識)の掲示義務があること、および販売の個体について必要な個体情報の表示および説明の義務があることを、周知徹底させていくべきです。
○ 動物の適正飼養は、家庭動物、展示動物、実験動物、産業動物等、人が飼育するすべての動物に対して及ぶものであり、2006年の実験動物の飼養基準に続いて、国際的な家畜福祉基準の制定の動向をふまえて、産業動物の適正飼養の基準の制定に取り組んでいます(農水省・環境省)。快適性に配慮した飼育は、家畜を健康にし、さまざまな感染症を防ぐ役目を果たします。
○ ペットや実験用のカエルによって持ち込まれた可能性のあるツボカビ菌や、鑑賞魚由来ではないかとされるコイヘルペスなど、ペットや家畜由来の感染症が野外に出た場合には生態系に大きな悪響を及ぼします。鳥インフルエンザ、西ナイルウイルスなど、人間?家畜・ペット?野生動物の間で循環する感染症に対しても、水際規制や予防措置を講じるとともに、動物の飼育者に対して啓発普及を進める必要があります。
○ 医療、畜産、養殖等における抗生物質の乱用が、環境中に耐性菌を作りだして、生態系をかく乱したり未知の病原菌が出現する可能性があります。みだりに抗生物質を使用しないように防止する必要があります。
4. 3 総合的な普及啓発(P.207)
(現状と課題)
わなによる鳥獣の捕獲においては、捕獲個体の致死処分の方法が問題となっています。捕獲動物は人の占有下にあり、動物愛護法に基づき、可能な限り苦痛のない方法で処分しなければなりません。「動物の殺処分に関する指針」を改訂し、野生動物についても処分方法の指針を示すべきです。