１、被害防止対策の促進について
和歌山県では平成11年度に550頭ものニホンザルを有害駆除していますが、ニホンザルの保護管理政策はなにも取られておらず、農作物被害が起こるとただ駆除してきただけでした。本年１月に当会が実施した市町村アンケート調査では、和歌山県内の市町村が被害防除にかけている費用はわずか100万円足らずで、一方駆除にかけている金額は1100万円以上だということが明らかになっています。全国平均から見ても被害対策が極端に低く、駆除以外ほとんど何もしてない実態がうかがえます。（添付文書参照）
県内のタイワンザルは平成11年の調査で200頭いると推定されていましたが、その後の平成11年、12年度で、和歌山市と海南市によりすでに75頭が「有害駆除」されています。このように、地元からの駆除要請に押され、保護管理計画が実施される以前に有害駆除で根絶させることもあり得るということでは、県の指導力が疑われます。
しかも捕獲されたタイワンザルの過半数はすでに県立和歌山医大に実験動物用に提供され、残りは溺死などで処分されています。移入種は「安楽死」させ、在来種は「虐殺」だというのも、理解に苦しみます。（平成7年総理府告示「動物の処分方法に関する指針」参照のこと）
今後、タイワンザルを根絶させた跡地にニホンザルがやってきて農作物被害を起こした場合、これもまた根絶させられることになりかねません。根本は、まさに和歌山県が、野生ニホンザルの生息調査や被害防止のための対策、補償制度などをどのように作り出していくのかということにかかっています。
これを契機に、県として、野生ニホンザルの生息調査、農作物被害の防止対策などに全力をあげて取り組むべく特別に予算をとっていただきたく存じます。
また、野生動物との共存に関しては、関心を有する幅広い各分野の人々の参加による合意形成の仕組みを作っていただきたく存じます。
２、野生動物の飼育規制の強化について
今回のタイワンザル問題の発端は、安易に外来の野生動物を飼育し、それを遺棄・逸走させた飼育者側の管理責任があります。これを教訓化することなく放置すれば、野生動物は飼えなくなれば野に放てばよいという風潮を助長することになりかねません。
二度とこの種の事柄を起こさないよう再発防止をはかるためには、飼育動物に関する県の「動物の愛護及び管理に関する条例」を再改正し、飼育者の管理責任を強化する必要があると考えます。
そのために、以下の２項について、ぜひ条例を改正していただきたく、要望いたします。
（１）サル類を飼育する場合は個体登録制とし、施設は動物園も医学研究機関も含め例外なく、すべて許可制とすること。
和歌山県のタイワンザルは私設動物園の飼育者が逃がしたこと、千葉県のアカゲザルは実験動物関係施設から遺棄されたのではないかと言われていることなどにより、例外を設けないことが必要不可欠と考えます。
（２）飼育の許可を必要とする特定動物の中に、移入種を含めること。
ペットの遺棄による移入種問題に悩まされてきた北海道などでは、すでに特定動物の中にアライグマ、フェレット、プレーリードッグなどを含めており、和歌山県でもこれにならって、移入種対策を実効力あらしめることが重要と考えます。
和歌山県が、他府県に先駆けて野生動物の飼育規制条例を定めることは、このような問題に悩まされている全国の自治体にとっても、よい前例となるに違いありません。
３、生息地調査と専門家の育成について
県の保護管理計画によれば、タイワンザルの捕獲に際してニホンザルが混獲された場合は放獣するとされています。しかし、被害防除対策のないまま現在地に放せば、今度は有害駆除されてしまう恐れがあります。どこに放獣すべきか、事前に、速やかにご検討下さい。
県民アンケートの結果次第ではサルの飼育に11億円を出す用意もあったはずですから、この際、特別に予算を計上して、県内の野生ニホンザルの生息状況の調査や、それに関わる専門家の人材育成、市町村における被害防除対策の研修および普及、野生動物との共存をはかる環境教育等の費用にあてていただくことを、強く要望いたします。
長期的に見れば、そのような対策が、野生動物との共存に資する最も有効な対策になると考えます。
４、事件の教訓化と環境教育の場を設けること
タイワンザルの処遇についての県民アンケートでは34.4％もの人々が飼育を望んでいることから、審議会では一部飼育する案も出ていると報じられています。
和歌山県では昨年、獣医師が５名常駐している鳥獣保護センターと動物愛護センターを併設した95000平米もある新規施設をオープンしています。今回のタイワンザル問題は、鳥獣保護法と動物愛護法の双方に関わり、飼育動物と野生動物の問題を考える格好のテーマとなっています。そのような意味で、一部飼育する場合は、一般への教育的効果および縦割り行政の改善に寄与するべく、ここに飼育施設を設けることが望ましいと考えられます。
さらに、センター内には移入種問題を考える資料展示コーナーを設け、今回の出来事を一過性の事件や話題として終わらせるのではなく、教訓化して伝えて行くことが重要と思います。また、県庁の中にそういうコーナーを設けることも簡易でお金のかからないやり方です。
この機会に、県の施設として、動物飼育に対する責任の自覚とともに野生動物との共存に関する関心を高め、適切に情報を伝えていく場をぜひ設けて下さるよう、要望いたします。
以 上
ALIVEの紹介 