【中国】
遺伝子組み換え作物が、それほど問題にならなかった害虫を深刻な問題に変える
ALIVE海外ニュース 2010.7-8 翻訳:宮路正子
GM作物で増えた害虫との中国農家の闘いで農薬の使用が増大
遺伝子組み換えで天敵の害虫を毒殺するように改良された綿を栽培すると、他の害虫の数を飛躍的に増加させることが北部中国で10年かけて行われた研究によって明らかになった。
1997年、中国政府は、バチルス・チューリンゲンシス (Bt)という、遺伝子組み換えによってオオタバコガに致命的な細菌の毒素を作り出すように改良された綿の商業栽培を認可した。
1990年代初め、オオタバコガの幼虫が大量発生し、綿の収穫高を激減させ大きな損害をもたらした。また、オオタバコガ駆除に使用する農薬は、環境を破壊し、毎年多くの犠牲者を出した。
現在、中国では、400万ヘクタール以上の土地に Bt 綿が栽培されている。 この作物が認可されて以来、北京にある中国農業科学アカデミーの昆虫学者コンミン・ウー率いる研究チームは、300万ヘクタールの綿花畑と2、600万ヘクタールの他の作物畑を含む中国北部38の観察地点で害虫の生息状況を観察してきた。
その結果、それまでは中国北部で特に問題とはなっていなかったメクラカメムシの数が1997年から12倍に増えたことがわかった。
現在では、メクラカメムシはこの地域における重要害虫となり、これほど大量に増えたのはBt 綿の栽培の規模と関係している、とウーはいう。
メクラカメムシの生息数が増加したのは、Bt 綿の導入で、これまでより駆除対象となる害虫の範囲が狭い農薬を使用するようになったからではないかと、ウーらは考えている。メクラカメムシは、Bt
の毒素には感受性がなく、農薬の使用量が減ったために増えたのだという。この研究は今週のサイエンス誌に掲載されている。(参照1)
メクラカメムシはオオタバコガと同じくらい綿の収穫に影響を与えることがあり、放置すると最大で50%も収穫高を減少させるという。また、この虫は緑豆、穀類、野菜や様々な果実などの作物への脅威にもなり始めている。
メクラカメムシの増加
メクラカメムシが増えているために、中国の農家はふたたび農薬の使用を余儀なくされ、現在、Bt 綿導入前と比較すると3分の2程度の農薬を使っている。メクラカメムシが現在使用している農薬に耐性ができれば、農家はすぐに以前と同じ量の農薬を散布するようになるだろうとウーは考えている。
2年前、米ニューヨーク州イサカにあるコーネル大学の経済学者デヴィッド・ジャストらが行った研究では、中国での Bt
綿の経済的利益はすでに失われてしまったと結論付け、(参照2)これを、二次的害虫に対処するために増加した農薬の使用が原因だとしている。
この結論は論議を呼び、研究への批判は、サンプルサイズが比較的小さいことと、経済のモデル化を使用したことに集中したが、
ウーの発見は、このジャストらの研究を裏付けるものだと、セントポール、ミネソタ大学の昆虫学者デヴィッド・アンドウはいう。
この調査結果で、遺伝子組み換え作物は害虫駆除のための特効薬ではないということが再確認され、統合的な害虫管理システムの一部としてでなければ、遺伝子組み換え作物の利点を長期的に保持できないとアンドウはいう。
失敗から再び
重要害虫を標的にすると、他の害虫がその代わりに増える可能性がある。 例えば、かつてはワタミゾウムシが世界中で綿への最大の脅威だったが、農家がワタノゾウムシ駆除用の農薬を散布し出すと、農薬への耐性ができたオオタバコガが、今度は一番の害虫になった。
同様に、 Bt 綿の導入以来、アメリカ南東部では、カメムシがオオタバコガに代わって最大の害虫となった。
遺伝子組み換え作物と共に、増える害虫の種類に合わせてそれに対応する有効なシステムが必要だが、このシステムは、新しい害虫の対処に必要な農薬の使用のタイミング、使用量、頻度について研究されたものに基づいていなければならないと、アンドウはいう。
しかし、農家では、害虫対策を講じるとき、農薬を過剰に使用する傾向があるという。
ウーの研究チームが、農薬の最も効果的な使用方法を探し、メクラカメムシが好む作物を近くに植えて、綿への被害を減少しようとしている一方で、中国の研究者たちは、オオタバコガとメクラカメムシの両方を殺す綿を開発しようとしている。
しかし、ウーは、害虫駆除は生態系全体を念頭に置いて行う必要があることを強調する。 遺伝子組み換え作物の影響は、そこに存在していなかった有機体を生態学的に導入することを念頭に置き、その地域全体レベルで評価しなければならない。それが、遺伝子組み換え作物の持続的な利用を確実にする唯一の方法だという。
参照:
1. Lu, Y. et al. Science advance online publication doi:10.1126/science.1187881
(2010).
2. Wang, S., Just, D. & Pinstrup-Anderson, P. Int. J.
Biotechnol. 10, 113-120 (2008).
ネイチャー誌 2010年5月13日
http://www.nature.com/news/2010/100513/full/news.2010.242.html
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