アメリカン.フットボールの花形クォーターバック、マイケル ・ヴィックの闘犬に関する有罪答弁は、アメリカで盛んに行われているとみられる流血を伴う残酷なスポーツにスポットを当てた。
動物福祉団体が集めた証拠は、闘犬がアメリカの50州すべてで禁止されているという事実にもかかわらず、広範囲で行われており、しかも増加していることを示唆している。
アメリカ国内で、およそ4万人が25万頭ほどの犬を使って「職業的な」闘犬に関わっていると見られている。
闘犬の所有者は、ピットプルテリアが持っている攻撃性を最大限に引き出すよう自分の犬を訓練し、それからリングで相手と対戦させる。試合の宣伝は地下ネットワークを通して行われる。
犬は噛み付いたら執拗に放さないよう訓練された顎を持ち、観客は1時間あるいはそれ以上、そういう犬が互いに相手を食いちぎろうと戦うのを観戦し、賭けをおこなうこともよくある。
米国人道協会(HSUS)によると、チャンピオン犬同士の戦いでは掛け金が10万ドル(約1150万円)までになることもあるという。
勝った犬は生き伸びて、再び戦うが、負けた犬は失血、ショック、負傷で死ぬか、あるいは金儲けの役に立たないと所有者に処分される可能性が高い。
そして、さらに多くの何万という人間、そのほとんどはギャング団のメンバー、がいわゆる「市街戦」に関わっている。市街戦では空ビルや路地で犬に即興の戦いをさせる。
■「処刑される」犬
ヴィックのケースに関する裁判所文書は、どうやらアメリカ南部、そして東部諸州に集中していると思われる闘犬に関連した残虐さの一部を暴露している。
ヴィックとその仲間3名は、全員が司法取引に同意したが、数年間にわたりBad Newz Kennelsという組織化された闘犬を運営していた罪に問われている。
ヴァージニアにあるヴィックの住まいが家宅捜索された際、54頭のピットブルテリアが見つかったが、その中には、どうやら試合による負傷を負っている犬、そしてルームランナーのようなトレーニング用機器や犬のアゴをこじ開けるのに使用した棒で負傷した犬もいた。
賞金を稼ぐ闘犬は州境を越えて何千ドルという掛け金の対象になる試合をさせられる、と裁判所文書には書かれている。ヴィックは、闘犬の賭けはしていなかったが、運営資金は提供していたと認めている。
また、ヴィックを含む3人の男は、訓練で見込みのなさそうだった数匹の犬を首から吊るし、溺れさせ、感電させ、あるいは地面に叩きつけて「処刑した」。
動物福祉団体は、当局が発見した54頭の犬もほぼ確実に殺される羽目になっていただろうと指摘する。
ある信頼できるブリーダーによると、適切に飼養されたピットブルテリアは良いペットになるが、闘犬は、他の動物を攻撃するように訓練されているので、里親を見つけるのは不可能だという。
イギリスでは、危険犬種法1991によって、ピットブルテリアの繁殖、販売、譲渡はすでに禁止されており、また、既にピットブルを所有している人は、公けの場では犬をリードでつなぎ口輪をかけなければいけないことになっている。
■ギャング文化
27歳のヴィックは、アメリカンフットボールで何百万ドルもの契約がとれるのに、なぜ闘犬という闇の世界に足を踏み入れたのかは誰にも分からない。しかし、闘犬の全米レベルでの増加が、暴力的なストリート文化の一部として取り入れられていることと関連していることを示す証拠がある。
米国人道協会(HSUS)で動物の闘技を担当するジョン・グッドウィンは、闘犬がどの程度普及しているかを調べるためには、シェルターに収容されるピットブルの数をチェックする方法があるという。
15年前には、シェルターに収容される犬の2パーセントから3パーセントがピットブルだったが、現在では全米で30パーセント、地域によっては50パーセントを占めるところもあるという。ミシシッピーのあるシェルターでは300頭ものピットブルが収容されており、その60パーセントには闘犬に使用されたことを示す傷跡があるという。
闘犬の増加傾向が大きい都市部では、シェルターは闘犬で不用とされた犬であふれている。闘犬はギャング文化において人気があるのだという。
シカゴ警察の調べでは、3年間で332人が闘犬と動物虐待で逮捕され、その5分の3がギャング組織と何らかのつながりがあることが分かっている。
もちろん、多くのピットブルは、特に南部の田舎では、シェルターまでたどり着くことすらできない、とグッドウィンはいう。所有者は犬が使い物にならなくなったら、ただ殺してしまうのだ。
■ステロイド浸け
動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)やHSUSなどの動物福祉団体の調査によると、闘犬として生きるのは快適でもなく長いものでもない。組織に繁殖されたピットブルの子犬は、より獰猛な気質になるよう扱われ、鎖につながれ、いつも空腹にさせられている。
彼らは無理やりルームランナーの上を走らされ、目の前には猫などの「噛まれ役」の動物がぶら下げられる。褒美はたいてい、訓練のあとにそういった動物に噛み付かせてもらえることだ。そしてあごを鍛えるために鎖に食いついてぶら下がることも奨励される。ピットブルはこうして強くなっていき、そして年上の動物との「試合」へと進む。
十分な攻撃性と「勝負への執着」ー疲れ果て、血を流していても戦い続ける意志ーを見せる若い犬だけが戦いに使われ、他は処分される。
試合は小さい正方形の囲われた穴の中で行われ、1時間あるいはそれ以上続くこともある。
対戦相手に噛み付かれないようにするために自分の犬の耳を切り落としたり、歯にやすりをかけて尖らせたり、ステロイド浸けにしたりするブリーダーもいるという。
犬が勝ち続けている限り、所有者は賭けの儲けや「望ましい」血統の子犬の繁殖で何千ドルも稼ぐことが出来る。
しかし、試合に負けたり、試合を途中であきらめたりしたピットプルは、通常、負傷が原因で命を落とすか、所有者に処分されてその後長く生きることはない。
■パワーとコントロール
では、闘犬の所有者は自分の犬に与える苦痛をどのように正当化しているのだろうか。
心理学者でアメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)の上級副会長ランドル・ロックウッド博士は、これまで闘犬の所有者は犬を知覚や感情のある生き物としては見ていなかったが、大事には扱っていたという。
しかし、最近になってギャング文化がどんどん闘犬を取り入れるようになり、それにつれて動物の扱いもより残虐で報復的なものになってきているようだ。
闘犬の心理には他の動物虐待の形と同じものがあり、その大部分がパワーとコントロールに関するものだとロックウッド博士はいう。
この心理に加えて、闘犬の所有者はリングで戦う動物と自分を同一視し、「自慢する権利」を得たいという願望、そして暴力のための素地は大きいという。
闘犬の所有者は、自分の犬の勝利を自分自身の強さと男性らしさに直接結び付けて考えており、これが、弱り犬を残虐に扱う理由のひとつではないかと、ロックウッド博士は見ている。
動物の負けは自分の負けであり、恥ずかしいこと、恥をかかされた仕返しをして自分の強さと支配を証明する必要のあるものと見なすのだ。
■重い刑罰
アメリカで闘犬の有罪判決を受けると5年以下の禁固刑と25万ドル(約2800万円)以下の罰金を科せられる。
しかし、当局にとっての問題は密かに組織化されたネットワーク、あるいは「市街戦」に関わる人間を突き止めなければならないことだ。
警察が闘犬を摘発する背景には、ひとつには闘犬が麻薬や他の組織化された犯罪と関連していることが多いからだという。
しかし、闘犬の残虐さを楽しむ人間もおり、さらに重要なことに、お金が関わっていることで、多くの人間にとって抗いがたい魅力があるのだ。
2頭のグランドチャンピオン犬の試合に10万ドルが賭けられていたら、大儲けをする人間と大損をする人間がいる。
しかし、闘犬には金銭的に得をするチャンスがあり、だから闘犬への関わりを抑制するために重い罰則が必要なのだ。
BBC ニュース・オンライン 2007年8月24日
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/6960788.stm