●場当たり的な有害駆除からの転換を
今年(2004年)の秋、各地でツキノワグマが人家近くに出没し、多数が有害駆除されています。4月1日から10月4日までに、クマとの遭遇で被害を受けた人は18の県で73人とも報じられています。特に北陸地方で多発しており、富山、石川、福井の3県ですでに179頭が捕獲・射殺されたとのことです。
日本では数年ごとにこのようなクマ騒動が発生し、その度に、異常気象や、餌不足、生息環境の破壊などが指摘されています。しかし、本当にそうなのか、その背景を調査し対策を講じるという努力がなされてきたとは言えません。いつも理由もわからないままクマが突然出現したかのように受け止められ、緊急事態だというのでその場限りの有害駆除で終わるのが常です。一度大量に捕獲すると、数年の間は数が減少するのでしばらくの間は皆がクマのことをを忘れ、対策も研究も行われず、数年たつと、また同じことが繰り返されます。
このようなことを繰り返しているうちに、クマの個体数は減少し、ついには絶滅ということになるでしょう。であればクマの射殺シーンが全国のTVに流れ国民的な関心となっているような今年こそ、科学的な調査や住民への啓発普及、被害防除対策など長期的、根本的対策に取り組みべきではないでしょうか。
●幅広い視野での取り組みを
クマの保護は単に「殺すな」というだけでは解決できない様々な問題があります。人里に出てきたクマを「奥山放獣」する取り組みはぜひ進めていただきたいですが、その奥山にクマが生きていける自然環境があることが前提です。それが確保あるいは回復できなければクマには行き場がありません。
一方、地元の人々にとっては、どのようにしたらクマの被害を防げるかの対策がない限り、早く駆除しろという要求しか出てこないことになります。
このような現状では、直ちに唯一これだという解決法がないので、以下のような取り組みを行い、中長期的に保護をすすめていくことが、一番の近道であるように思われます。
▼地元での取り組み
地元の高校生や自然保護ボランティアなどでもぜひ調べていただきたいこと。
1.生息地の調査
・クマが生きていける自然環境があるか、森林伐採、人工林化、秋の実りの状況などを調べる。
2.クマの行動域と食性の調査
・クマがどのような場所でどのような食べ物を探しているかを調べる。また人里に引きつけられて出てくる要因を調べる。
3.被害防止対策
・集落にクマの食べ物がないようにする。クマを引きつけないように残飯やゴミをすべて片づける、果樹などを取り残さない。
4.啓発普及
・日頃からクマの出没に対し物理的・心理的に備えておく。行政、専門家等をまじえての地域集会の開催、対策パンフレットの配布など。またクマ対策の先進的事例を取り上げ紹介。
▼研究者の取り組み
地元の行政や住民と協力してデータの収集と分析、対策を検討していただきたいこと。
1,捕獲個体のデータ収集