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高崎山のサルの
実験提供に反対する意見書(1)
1998年1月
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『ALIVE』No.18(1998年1-2月号)より
去る(1997年)11月15日付けの朝日新聞(中部本社版)によると、国立大学動物実験施設協議会が日本各大分市では天然記念物指定の高崎山の野生サルを、「頭数過剰」の理由で実験用に回すことを検討しているとのことです。
もし高崎山のサルが実験に回されるようになると、日本全国の野猿公園のサルも実験用の供給源とされていく可能性があります。
野生動物は国民の貴重な財産であり、一研究者集団が勝手にこれを実験用に使用することは許されません。
当会では以下の観点から、関係各省庁に日本の野生ザルの保護のための施策を直ちに取るよう強く要望しています。
環境庁への要望
(環境庁自然保護局 〒100 千代田区霞ヶ関1-2-2)
日本は生物多様性条約を批准し、国として取り組むべき生物多様性国家戦略を打ち出しています。その一方、日本の野生動物、中でも大型の哺乳類はほとんどが「有害獣」として駆除され続けており、野生動物保護の政策が有効に実施されておりません。
日本各地の野猿公園のニホンザルは、たとえ餌付けされていようとも、野生動物であることにかわりはありません。国際自然保護連合の最新の1996年度版『レッドデータブック』では、霊長類の中でゴリラ、チンパンジー、ニホンザルの3種を、最も絶滅の恐れがある絶滅危惧種に指定しています。ニホンザルは餌付けされた地域では増加しているとしても、種全体としては絶滅に瀕する野生動物であり、地域個体群としては絶滅したケースも数多く見られます。
環境庁は、野生ニホンザルの保護管理の責任者として、野猿公園の「過剰頭数の削減」や「有害駆除」の名の元に捕獲されたサルが、本来の駆除の目的を逸脱し、国内外の動物実験施設に送り込まれている実態を直ちに調査し、歯止めをかける責任があります。現在の鳥獣保護法の元では、駆除された野生個体は駆除者の所有物となり、どのような残虐な処分が行われようともこれを規制する手だてがありません。これは明らかに法の不備です。
高崎山のサルをはじめとして全国の野猿公園の野生ザルに対して、一度実験用に供給する体制が作られた場合、現行の状況では非合法的、非人道的手段で野生のニホンザルが捕獲される圧力をますます高めることは間違いありません。日本唯一の野生霊長類であるニホンザルを動物実験に使用することは、国内外の野生動物保護の世論を踏みにじるものです。
有害駆除された野生ニホンザルに対しては、捕獲後の監視体制がなく、国も自治体も実態調査さえ行っていない極めてずさんな状態です。このことは、国が国民の共有財産である野生動物に対する保護管理責任を果たしていないということができます。
環境庁は、「頭数管理」や「有害駆除」の名目で捕獲され、転売されていくサルの取引に対し、直ちに禁止の措置を取られるよう、要望致します。
文化庁への要望
(文化庁 文化財保護部 〒100 千代田区霞ヶ関3-2-2)
高崎山のサルはかつて絶滅に瀕し、天然記念物に指定して保護することによって絶滅を免れた経緯があります。その後、市当局が観光用に過剰に餌付し、その結果としてサルの頭数を増やす結果になったことも、絶滅と同様に人間の責任です。
天然記念物の名の元に、市当局は広く日本中に「愛らしい、かわいい」サルに会えるとのキャッチフレーズで観光客を呼び寄せながら、その片方で数が増えすぎたとして残酷な動物実験に引き渡すなど、偽善も甚だしいものです。
文化庁は、国民共有の財産である高崎山のサルを守る責任があります。過剰頭数の問題は、安易な見せ物主義に基づく餌付けを廃し、自然・環境教育の場への転換をはかりつつ、本来の野生の生態に戻すことによって解決すべきです。また、頭数管理の名の元に動物実験用に回すなどはもっての他であり、このような圧力を受け入れないように、強く要望いたします。
総理府への要望
(総理府 内閣官房管理室 〒100 千代田区永田町1-6-1)
人間が占有する動物を保護する法律は唯一「動物の保護及び管理に関する法律」しかありません。この法律は、動物を科学的研究に使用する場合の基準を定めています。しかし、日本では研究者たちに対して、動物の福祉や権利の教育や無益な実験を避けるように指導するいかなる制度もなく、研究者が密室の中で動物に対してどのような残虐行為を行おうと、その事実が明るみに出され処罰されることもないのです。日本は、実験の監視も情報公開もなされない闇の中の残虐行為が放置されるままの恐ろしい国として、国際社会に恥をさらしています。
このような状況において、野生の霊長類・ニホンザルを実験用に供給するルートを作ることは、今後野放しの残虐行為を押し広げる恐れがあり、国際的な非難を受けることは免れません。
総理府は、早急に、動物保護の立場から、野生由来の動物を実験に使用しない原則を打ち出すと共に、国際社会に通用する動物保護法を制定されるよう、要望いたします。
(文部省 学術国際局 〒100 千代田区霞ヶ関3-2-2)
さる4月に日本神経科学学会が、脳研究の実験動物として「イヌ、ネコ、サルの安定供給についての要望書」を文部省学術国際局に提出しています。これに呼応する形で、国立大学動物実験施設協議会は、高崎山をはじめ日本全国の野猿公園の野生ニホンザルの「余剰個体」を実験用に供給するよう働きかけています。
しかし、野生由来の動物を実験に使用しないことは国際的合意事項です。1986年のEC(欧州共同体)動物実験指針にも、野生の霊長類やペットの犬や猫を実験に使用しないことを明記しています。京都大学霊長類研究所の基準でも野生由来の霊長類を実験に使用しないように求めています。
それにもかかわらず、現実には日本各地で「有害駆除」の名の下に捕獲されたニホンザルが実験に供されています。例えば、大分県ではこれまでにも天然記念物指定区域から外に出た高崎山のサルに対しては、「有害駆除」として捕獲し、大分医科大学などに実験用に回しています。さらに、大分医科大学から他の大学・研究機関に横流しされている事実があるにもかかわらず、実態さえ把握されていない状態です。このような事実は大分県に限らず、全国の自治体で行われています。
しかし、年齢も病歴も環境生育条件も不明の野生動物やペットを使用するような動物実験のデータに信頼性は認められないとして、国際的な学問レベルでは容認されないのが現実です。
文部省は、動物の尊い生命を犠牲にする実験的研究に対して、広く倫理的・科学的観点からチェックし、安易に助成金を交付するべきではありません。また、過去の助成金交付研究に対しても、過去にさかのぼってデータの再点検を行い、無益な実験に貴重な国税が乱費されていないかチェックしていただきたい。以上、要望いたします。
神経科学分野におけるサルの使用状況アンケート
(日本神経科学学会「神経科学ニュース」より)
動物実験廃止・全国ネットワーク(AVA-net)ホームページへ
実験者たちへの質問と回答
(AVA-net会報No.66/68、1998.1-2月、5-6月号より)
実験に使われている猿の写真
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