東山動物園への
アジアゾウの導入計画についての再質問書
名古屋市の東山動物園が、スリランカよりアジアゾウの子供を導入し、かつ新たにゾウ舎の建設をしようとしています。アジアゾウは、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)で商取引が禁止されている動物ですが、東山動物園では、繁殖研究という学術研究目的でアジアゾウを輸入申請すると思われます。
飼育設備や繁殖プログラムなどに疑問を覚えるALIVEでは、2011年10月31日に名古屋市に公開質問書を送付しました。11月28日に名古屋市より回答をいただき、それに対して再質問書を提出しました。
2011年12月21日
名古屋市長 河村たかし 様
東山動物園におけるアジアゾウの導入計画についての再質問書
東山動物園におけるアジアゾウの導入計画について、11月29日付でご回答頂きありがとうございました。
いろいろ踏み込んだ内容で納得いくところがございましたが、なお基本となる理念やそれに基づく新ゾウ飼育・展示施設の具体的進め方については、まだ不明の点が多々ございます。
そこで、再度以下の質問をお送りさせていただきます。ご多忙中、恐縮ですが、ご回答いただきたくお願い申し上げます。
1. 新設ゾウ施設の問題点
ゾウの飼育・管理に関しては、動物行動学や環境エンリッチメント等についての科学的知見の集積により、国際的にはこの10数年で急激な変化が生じています。すなわち、ゾウの生物学的特性に配慮した飼育方法をとることに海外の動物園は大きな努力をしています。
しかし、現時点では、新たなゾウ飼育施設が、70数年前に作られた既存のゾウ舎と比較した場合、どの程度そうした知見を反映した「新しい施設」なのかは、未だ不明瞭です。
ゾウは母系の家族で、群れで暮らす動物ですので、群れ飼育が本来あるべき姿ですが、その場合、個体間の相性の組み合わせが非常に重要です。相性が悪い場合には仲間から排除され、そのストレスで死亡した例もあります。4頭を一緒にする場合は、相性がなじむまでに隔離したり、自発的に集まったり、逆に離れたりすることが十分にできるような環境を整える必要がありますが、本計画ではそのような設計がなされているかどうか、不明です。
また、日中に使用するであろう屋外放飼場と夜間収容時に使用される飼育施設のサイズを比較した場合、夜間施設が広さや造作のいずれにおいても見劣りがします。貴園の見解では「ゾウは夜間は基本的に寝ていることが多い」と言われますが、実際にはゾウは、1日18時間程度を採食のために動き回ることは、野生下や動物園での夜間観察から明らかにされています。日中8時間、夜間16時間使用する施設の広さのバランスをしっかりと考慮されているか、不明です。今回の回答書では、いろいろと工夫されているとのことですが、具体性に乏しく、イメージが浮かびません。施設の設計図をお送り頂き、どこがどのように工夫されているのか明らかにしていただけないでしょうか。
貴園では、「今後は新しい工夫も必要と考えており、今回の建築をゴールとして位置づけるのではなく、得られた情報や更に最新の知見等も含めより良い飼育環境や展示環境について検討していきます。」とご回答されており、うなずけるのですが、多くのことを将来の課題として位置付けた長期にわたる計画の場合は、随時、新しい知見を参考にしたり、予算や人員が変動することも考えられるため、順応的にプランを変更していくことが求められます。このような順応的計画を実行するためには、再生フォーラムにおける議論に限らず、今後とも広く各方面からの意見を求めながら進めていくべきと考えますが、いかがでしょうか。
2.種の保全について
貴園では、今後、5頭の群れ飼育を計画しており、新たに2頭をスリランカから導入することを予定しているとのことです。しかし、絶滅の恐れのある野生動物の取引を規制するワシントン条約では、展示目的では、両親のいずれかが野生個体である場合には、輸出入は禁止されており、学術目的でのみ可能です。今回の輸入は、以下のどちらでしょうか。
(1)学術研究目的で行なわれるのか(条約3条が定める「輸入許可書」が必要となる)
学術研究の場合は、輸入許可申請に伴い学術研究計画書を、同条約の科学当局である環境省に提出しなければなりません。「学術研究用の使用誓約書」に添付される研究計画(目的、内容、場所、期間、研究成果の発表方法等)の内容について、概要はすでに書かれているかどうか、お知らせ下さい。
(2) 繁殖させた個体として行なわれるのか(条約7条5項に基づく繁殖証明書が必要となる)
繁殖個体として行なわれる場合には、共同保護計画の内容、及び輸出される標本が真に繁殖個体であるかどうかの確認が必要です。ワシントン条約決議Conf.10.16(Rev.)は、制御された環境下での「第2世代」(F2)の確実な生産が可能と証明された方法で管理されている(今後も安定的に生産される)ことを要求しています。繁殖証明書が決議に適っているかどうかを判断する権原は、基本的にそれを発給する輸出国にありますが、条約の効果的実施のために日本が果たすべき責任を考えれば、ただ輸出国任せにするのではなく、輸入者としても可能な限りの確認を行なうべきです。
アジアゾウの保全を目的とする学術研究であれば当然のことながら、現地スリランカにおける野生個体の生息状況について調査し、共同でアジアゾウ保護計画を立てて行くことが、輸入する動物園としての責務ではないでしょうか。
3.繁殖プログラムについて
野生のアジアゾウ保全の第一義は、本来の生息地で繁殖することですが、どうしてもそれが不可能または困難である場合には生息地外保全として、本来の生息地に近い場所または環境で自然交配できる条件を用意することが望むべきことです。アジアゾウはただでさえ繁殖が困難であるのに、そのうえ、人工授精による負担を強いるのはゾウの福祉に反すると考えられます。
人工繁殖に関して、設備として獣舎内で作業スペースを設け、積極的に技術の獲得を目指していきたいとのことですが、今から繁殖の困難さを前提として新たに人工繁殖設備を設けることは、本末転倒ではないでしょうか。
まずは、どうしたら自然繁殖できるのかの研究を優先させ、施設もそのような目的に適うように設計されてしかるべきと考えますが、いかがでしょうか。
4.再生プラン及び費用に関して
再生プランについては、市長がなぜ動植物園に詳しくない人を座長や委員に任命したのか質問しているのですが、ご回答いただいておりません。10数億円という多額な予算を要する事業計画の妥当性に関する疑問でもありますので、明解なご回答をいただきたく存じます。
ちなみに、ヨーロッパ連合(EU)では、2002年に動物園指令(指令:加盟国が国内法で法制度化することを命じる条約)を出し、生物多様性の確保、種の保存、研究教育、飼育施設の環境エンリッチメントなどを加盟国に義務付けており、世界動物園協会においても同様、国際的な動物園のあり方を示しています。
http://www.alive-net.net/law/kaigai/wlaw-EU-zoo.html
東山動物園を歴史文化的施設として、東山再生ワーキングの検討課題としたということであれば、単なる「楽しみと賑わいの創出」だけでは不十分で、生物多様性条約締約国会議COP10を開催した都市として、国際的な水準にも合致する飼育基準や、動物園としての理念や文化的、教育的価値についても、常に取り組んでいくことが必要であると考えますし、広く市民の支持を得て行くためにも、今後とも様々な分野の方々に意見を問い衆智を集めていくべきではなかと考えますが、ご見解をお知らせ下さい。
以上の問題について、1月15日までご回答いただきたくお願い申し上げます
以上
⇒ 東山動物園へのアジアゾウ導入計画に関する質問書と回答