このたび、「薬事申請における動物実験の動物福祉的課題調査」について、日本動物実験代替法学会第28 回大会(2015年12月10日〜12日、横浜)の一般演題(ポスター発表)に応募したところ、採用され、発表を行いました(発表者:ALIVE調査員 藤沢顕卯)。
日本動物実験代替法学会は、「動物実験の適切な施行の国際原則である3Rsの推進と普及を目的とし、研究、開発、教育、調査等を行う学術団体」(学会のHPより)で、年1回行われる大会には、医薬品や化粧品、化学品メーカーなどの関係者が多く参加します。
関係資料を以下に掲載します。
・発表要旨(PDF)
・当日レジュメ(PDF)
・ポスター(↓以下)
薬事申請における動物実験の動物福祉的課題調査
【緒言】
動物実験代替法や3Rsの手法が学会発表のレベルにとどまらずに、実際にどれだけ研究や試験の場で使われているかは動物愛護や動物福祉を気にかける一般市民の重大な関心事である。
今回、初の試みとして、公開されている薬事申請資料をもとに、ICH/OECDガイドラインの3Rs/動物福祉に関わる記載の部分と対比させることにより、薬事申請における動物実験、特に毒性試験においてどの程度代替法や3Rsの手法が使われているか、ICHやOECDのガイドラインに沿った手法がとられているかについて集計し、調査を行った。
【調査対象】
1.平成25年度に承認された新有効成分含有
医薬品39件 (※1)
2.平成16年度から平成21年度までに承認された新有効成分含有
医薬部外品15件 (※2)
(「件」は承認毎の単位を指す。)
【調査結果】
※「GD」はICH/OECDのガイドラインまたはガイダンスを指す。
課題@ 独立試験の回避がされていない。 |
試験種別 |
参照GD |
GD内容 |
集計結果 |
単回投与 |
ICH
M3(R2) |
「用量漸増試験もしくは短期間反復投与の用量設定試験から急性毒性に関する情報が得られる場合には、別途に単回投与試験を実施することは推奨されない。」 |
【医薬品】安全性試験が行われた37件中30件で独立した試験が行われていた。 |
局所刺激性
|
ICH
M3(R2) |
「局所刺激性は、一般毒性試験の一部として、予定臨床適用経路により評価することが望ましく、独立した試験での評価は推奨されない。」 |
【医薬品】(局所適用である)注射剤の17件中8件、貼付剤の1件中1件で独立した試験が行われていた。 |
課題A 段階的試験戦略(in vitro/in silicoなど)が使われていない。 |
試験種別 |
参照GD |
GD内容 |
集計結果 |
単回投与 |
OECD
TG420/
423/425 |
「試験の実施前に被験物質に関する入手可能なすべての情報を検討する。その中には物質の特定と化学構造、物理化学的性質、その物質に関する他のすべてのin vitroおよびin vivo毒性試験結果、構造関連物質の毒性データ、および予想される物質の使用法が含まれる。」 |
【医薬品】単回投与毒性試験が独立で行われた30件の中で、in vitroやin silicoでの試験が行われたとの記載はなかった。
【医薬部外品】単回投与毒性試験が行われた14件の中で、in vitroやin silicoでの試験が行われたとの記載はなかった。 |
皮膚刺激性
眼刺激性 |
OECD
TG404/ 405 |
「物質の潜在的皮膚腐食性/刺激性に関するすべての利用可能なデータが評価されるまで、in vivo 試験は実施されるべきでない。そのようなデータは、ヒトまたは実験動物における既存の研究からの証拠、構造的に関連する一つ以上の物質またはそのような物質の混合物の腐食性/刺激性の証拠、物質の強い酸性またはアルカリ性を示すデータ、および有用性を評価され容認されたin vitro またはex vivo 試験からの結果を含む。」 |
【医薬品】in vitro試験が行われたのは皮膚刺激性試験が行われた8件中2件、眼刺激性試験が行われた7件中4件(ただしin vitro試験が行われたのは経口剤または吸入剤で、それぞれ2件中1件、4件中2件は動物実験も実施)で、in silicoでの試験が行われたとの記載はなかった。
【医薬部外品】皮膚刺激性試験/眼刺激性試験がそれぞれ14件行われた中で、in vitro試験が行われたのは眼刺激性試験の1件だけ(動物実験と併用)で、in silicoでの試験が行われたとの記載はなかった。 |
課題B 段階的な投与が行われていない(?) |
試験種別 |
参照GD |
GD内容 |
集計結果 |
単回投与 |
OECD
TG420/
423/425 |
試験する物質についての情報がない場合には、開始投与用量を最高用量とすることは避け、試験結果によって用量を上げ下げしながら段階的に試験を行う。(要約) |
【医薬品】記載なし
【医薬部外品】記載なし(いきなり最高用量を投与し、かつ死に至らしめている例もみられた。) |
皮膚刺激性
眼刺激性 |
OECD
TG404/ 405 |
「in vivo 試験は、まず動物1 例を用いて実施することが強く推奨される。」 |
【医薬品】最初に1匹の動物を使って毒性を評価したとの記載は、皮膚刺激性試験で動物実験が行われた7件中1件、眼刺激性試験で動物実験が行われた5件中1件だけだった。
【医薬部外品】皮膚刺激性試験/眼刺激性試験で動物実験が行われたそれぞれ14件のうち、最初に1匹の動物を使って毒性を評価したとの記載はなかった。 |
課題C 麻酔剤/鎮痛剤が使われていない。 |
試験種別 |
参照GD |
GD内容 |
集計結果 |
眼刺激性 |
OECD
TG405 |
「局所麻酔剤や全身性鎮痛剤は常に(routinely)使われるべきである。」 |
【医薬品】眼刺激性試験で動物実験が行われた5件のうち、麻酔剤や鎮痛剤の使用に言及したものは1件もなかった。(なお、5件のうち2件は眼に対する重度もしくは著しい刺激性がみられた)
【医薬部外品】眼刺激性試験で動物実験が行われた14件のうち、麻酔剤や鎮痛剤の使用に言及したものは1件もなかった。 |
課題D 瀕死動物を安楽死させずに致死させている。 |
試験種別 |
参照GD |
GD内容 |
集計結果 |
単回投与 |
OECD
TG420/
423/425 |
「瀕死動物や、明らかに痛がったり、強い持続的な苦痛の徴候を示したりしている動物は安楽死させ、試験結果の解釈ではこれらを死亡動物と同じものとして扱う。」 |
【医薬品】瀕死状態がみられた15件中、少なくとも5件では瀕死状態を経て安楽死させずに致死させていた。
【医薬部外品】単回投与毒性試験で安楽死処置を行ったとの記載は1件もなく、死亡がみられた6件中、少なくとも5件では瀕死状態を経て致死させていた。 |
課題E 限界量を超えた用量が投与されている。 |
試験種別 |
参照GD |
GD内容 |
集計結果 |
単回投与
反復投与
生殖発生
がん原性 |
ICH
M3(R2)/ S5/ S1C(R2) |
「急性、亜急性及び慢性毒性試験での投与量の限界量は、・・・げっ歯類及び非げっ歯類ともに1000 mg/ kg/日が適切であると考えられる。」(M3(R2)) 「1g/kg/day が限界量として十分である。」(S5) 「1500mg/kg/day が限界量として適切である。」(S1C(R2)) |
【医薬品】30件中16件の単回投与毒性試験、36件中5件の反復投与毒性試験、31件中3件の生殖発生毒性試験で1000mg/kg、18件中2件のがん原性試験で1500mg/kgを超える投与が行われていた。 |
単回投与 |
OECD
TG420/
423/425 |
特定の規制上の必要がある場合を除き、2000mg/kgを超える用量での試験は動物福祉の観点から勧められない。(要約) |
【医薬部外品】単回投与毒性試験が行われた14件中5件で2000mg/kgを超える投与が行われていた。 |
課題F 死亡や重度の苦痛を引き起こしている。 |
試験種別 |
参照GD |
GD内容 |
集計結果 |
反復投与
生殖発生
がん原性 |
OECD
TG407/ 408/409 等
ICH
S5/
S1C(R2) |
「最高用量は毒性を生じさせるが死亡や重度の苦痛を引き起こさない用量とする。」(TG407/408/409等) 「高用量群では母動物に何らかのごく軽度の毒性が発現することが望ましい。」(S5) 「高用量すなわちMTDとは、がん原性試験において軽度な毒性作用が現れることの予想される用量である。」(S1C(R2)) |
【医薬品】少なくとも36件中27件の反復投与毒性試験、31件中17件の生殖発生毒性試験で投与に起因すると思われる死亡(瀕死による殺処分含む)がみられた。がん原性試験においても高用量で死亡や重度の苦痛が多くみられた。 |
反復投与
生殖発生 |
OECD
TG407/
408/409/ 414/415/
416等 |
「最高用量は毒性を生じさせるが死亡や重度の苦痛を引き起こさない用量とする。」等 |
【医薬部外品】死亡や重度の苦痛を引き起こしている例が11件中2件の反復投与毒性試験、8件中3件の生殖発生毒性試験でみられた。 |
課題G 全体の試験設計が適切でない(?) |
試験種別 |
参照GD |
GD内容 |
集計結果 |
全体
(生殖発生、 がん原性など) |
ICH
S5 |
「高用量は、入手可能なあらゆる試験のデータ(薬理、急性及び慢性毒性、及びキネティクス試験)を参考にして設定しなければならない。」 |
【医薬品】単回投与毒性試験や反復投与毒性試験で致死量と判明している投与量を生殖発生毒性試験やがん原性試験で投与している例がみられた。 |
課題H 代替法が使われていない。 |
試験種別 |
参照GD |
GD内容 |
集計結果 |
光毒性
皮膚感作性 |
OECD
TG432
TG429/ 442A /442B |
TG432:3T3 NRU (in vitro)
TG429/442A/442B:LLNA(in vivo)
※なお、2015年2月に以下の試験法が採択されている。
TG442C:DPRA(in chemico)
TG442D:ARE-Nrf2 Luciferase (in vitro) |
【医薬品】代替法が使われたのは光毒性試験が行われた12件中7件(3T3 NRU)、皮膚感作性試験が行われた7件中3件(LLNA)だった。(ただし代替法が使われたのは経口剤、注射剤、吸入剤)
【医薬部外品】光毒性試験が行われた6件、皮膚感作性試験が行われた14件のうち、代替法を用いたものは1件もなかった。 |
がん原性 |
ICH
S1B |
2種のうち1種は、短・中期の試験(遺伝子改変マウス等を使用)で評価可能(要約) |
【医薬品】短・中期がん原性試験が行われたのは、がん原性試験が行われた18件中1件だけ(Tg.rasH2マウス使用:短期がん原性試験)だった。 |
TK(トキシコキネティクス) |
(ICH
S3A) |
― (マイクロサンプリング手法の利用に関する質疑応答集(Q&A)がICHで検討中) |
【医薬品】マイクロサンプリング法の使用についての記載はみられなかった。 |
※ICHガイドラインの翻訳は対応する厚生労働省の通知を、OECDガイドラインの翻訳は国立医薬品食品衛生研究所のHPを参照した。
【本調査の課題と制約】
●薬事申請資料中の試験データは古いものが多いと推察されるため(公開資料には試験時期が記載されていない)、現在のICH/OECDガイドラインとの単純比較による評価ができない。
●段階的試験戦略の使用や段階的投与、安楽死など3Rsや動物福祉に関する事項の記載義務がないために、記載がない場合の集計や評価が困難。
●独立試験の回避や限界量を超えた用量の投与など、ICH/OECDガイドラインに準拠していない場合に、特別な理由があるかどうかの記載がないために正確な評価が困難。
【考察】
上記のような課題と制約はあるものの、薬事申請試験における動物福祉的側面について、全体の傾向の把握や、具体的な課題を抽出した意義は大きいと考える。また、当会が行ってきた他の調査や、学会などでの発表や発言を見聞きしてきた経験に照らし合わせると、これらの課題が現在は解決されていると楽観視することはできないと思われる。関連業界の方々、薬事申請試験に関わる方々には、今一度動物福祉の重要性を再確認していただき、本調査で明らかになった課題の1つ1つを再点検していただきたい。
(※1)うち1件は非臨床試験を実施せず、1件は他の1件と試験の結果を共有していたため、
実際には37件を集計対象とした。(経口剤18件、注射剤17件、貼付剤1件、吸入剤1件)
(※2)うち1件は安全性試験を実施していなかったため、実際には14件を集計対象とした。 (経皮剤7件、染毛剤2件、殺虫・殺鼠剤5件)