11月29日に文部科学省で特定胚等研究専門委員会(第102回)が開かれ、傍聴してきました。
http://www.lifescience.mext.go.jp/2017/11/102291129.html
これまでにもお伝えしていますように、文部科学省は、動物性集合胚(ヒトの細胞を混ぜ合わせた動物の胚)の取り扱いの規制緩和(動物胎内への移植や個体産生の解禁等)を検討しており、近く関連指針の改正案をまとめる見込みです。
http://www.alive-net.net/animal-experiments/animal-human-chimeric-embryo/action_171116.html
今回の委員会では、事務局(文部科学省ライフサイエンス課)から、動物性集合胚に関連する国内外の規制等の現状が表で示され、
http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1981_02.pdf
動物性集合胚に係る主な論点と今後の対応の考え方(案)が示されました。
http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1981_03.pdf
国内外の規制等の現状では、米英や国際関連学会のガイドラインやガイダンスでは、動物性集合胚の作成や個体産生が禁止されていないこと、ただしアメリカでは、霊長類を使用する研究や産生した個体の交配については助成しない、あるいは許可されるべきでないとされていること(なおEUでは霊長類の実験使用自体が厳しく規制されている)、また、イギリスや国際関連学会では、生殖細胞を作成する研究、脳に実質的な改変を伴う研究、動物の外観を大幅に改変する研究については慎重に審査すべきとされていることが示されました。(日本ではクローン技術規制法に基づく「特定胚の取扱いに関する指針」で、作成後ごく初期の段階の研究のみ可能、動物胎内への移植や個体産生は禁止)
日本で定義される「動物性集合胚」については、特に海外では規定(定義)されていないようで、確かにヒト細胞の取扱いという観点においては、現段階では、日本の規制の方が海外の規制よりも厳しいようです。しかし、動物実験の規制という点では、海外の方が日本より厳しく、動物性集合胚の研究も海外では動物を使う以上は動物実験の各種法規制が適用されます。また、先日発表した
動物実験計画書の日米比較調査に見られるように、日本と海外では、動物実験計画書の審査にも、特に動物福祉において圧倒的な開きがあります。そのような点を考慮せずに、単に海外の(ヒト細胞の取扱いに関する)規制状況に合わせようとすれば、動物福祉上の問題が懸念されます。また、未知の領域においてヒト細胞(及び産生される未知の生物)の取扱いに慎重になるのは当然のことで、何が何でも海外の規制状況に合わせなければいけないということはないでしょう。
主な論点と今後の対応の考え方(案)では、
1.動物性集合胚の作成目的については、
現状のヒト移植用臓器作成に限った研究目的に変えて、ネガティブリスト方式(認められない研究内容等を示し、それ以外については原則認めるとするやり方:研究範囲が広がることになる)の導入が提案されています。
2.生殖細胞等を作成する研究については、
産生した個体の交配や個体から得られた生殖細胞の受精は当面、禁止しつつ、それ以外については、「個々の研究計画ごとに、当該研究の科学的合理性や必要性等について(国の委員会で)審査を行う。」(注)という提案がされています。
3.脳神経細胞等を作成する研究については、
「大型動物及び霊長類の胚を用いて個体産生を行う研究の審査にあたっては、個体産生の必要性等(と)ともに、先行研究等の状況を参考に人と動物の境界が曖昧な個体の産生がないことを確認する。」としつつ、「個々の研究計画ごとに、当該研究の科学的合理性や必要性等について、(国の委員会で)審査を行う」ことが提案されています。
4.生殖細胞等、脳神経細胞等以外の細胞・臓器を作成する研究についても、
「個体産生を伴う研究の審査にあたっては、個体産生の必要性等を確認する。」としつつ、「個々の研究計画ごとに(国の委員会で)審査を行い、当該研究の科学的合理性や必要性等について確認する」ことが提案されています。
要するに、「産生した個体の交配や個体から得られた生殖細胞の受精」についてのみ禁止し、あとは全て認めよう(認めない研究目的の案が出される可能性はあり)ということです。
欧米で否定的な霊長類の使用についてもほとんど配慮はなく、これでは欧米に比べても緩い規制になってしまいます。
(注):案で「個々の研究計画ごとに、・・・審査を行う。」としているのは、議論が行われている特定胚等研究専門委員会(文部科学省)での審査を指します。現在でも、動物性集合胚の作成は事前に届出が必要で、「特定胚の取扱いに関する指針」に合致するかどうかを当該委員会が審査することになっていますので、国が審査を行うこと自体は現状と変わりません。研究に必要な要件が変わる可能性はありますが、今回の案には全くと言っていいほど触れられていません。
霊長類の使用、生殖細胞や脳神経細胞等を作成する研究については、これまで内閣府の生命倫理専門調査会をはじめ、文部科学省の議論でも、当面の間禁止することも含めて慎重に検討していく必要がある、などの意見が出されてきました。(「動物性集合胚の取扱いに係る倫理的・法的・社会的観点からの整理」など参照)また、胎内移植についても、すぐに個体産生まで認めるのではなく、取扱期間を段階的に拡大していくのが適当ではないか、などの意見が出されてきました(「動物性集合胚の取扱いに関する作業部会における調査・検討状況について」など参照)。しかし今回の案では、これらの検討結果や意見をなし崩しにして、基本的に全て容認する案になってしまっています。
生命倫理専門調査会では、「科学的合理性、社会的妥当性に係る一定の要件を定め、それを満たす場合に限って、動物胎内への移植を認めことが適当である。」との見解も出ています(「動物性集合胚を用いた研究の取扱いについて」参照)。しかし今回の案では、「一定の要件」について全く触れていませんし、「個々の研究計画ごとに審査を行い、当該研究の科学的合理性や必要性等について確認する」として、「社会的妥当性」が抜けて、「必要性」にすり替わってしまっています。
今回の取りまとめ案は、今まで約6年にもわたり積み重ねてきた議論や検討結果を突然に反故にするものです。これらの方針がどのような根拠で変更されたのかも全く示されていません。このような、なし崩しでいい加減なやり方を認めてしまってよいのでしょうか??今までの調査会、部会、委員会での議論は何だったのでしょうか?これら審議会の運営は、委員の報酬をはじめ、国民の税金で賄われています。これでは税金を無駄にしていると言われても仕方がないでしょう。
出席した委員からは特段の反対意見もなく、ほとんど丸飲み、追認しているだけの状態です。これでは完全に文部科学省の独裁で、委員はいったい何のために存在するのかわかりません。
規制が緩和されれば、動物実験における生命操作の領域が広がり、未知の生物や健康上のリスクを負った生物がこれまでにも増して多く生み出されることが予想されます。また今後、動物を使った他の生命操作にも扉を開き、歯止めが効かなくなる恐れがあります。これを阻止するため、ぜひ皆様の意見を届けてください。
意見提出先や例文など詳細は以下をご覧ください。
http://www.alive-net.net/animal-experiments/animal-human-chimeric-embryo/action_171116.html