動物実験について何から情報を得るかという質問に、多くの方々が新聞やテレビの報道からと答えています。その報道というのは、動物実験を批判するものではなく、あたかも「動物実験の成果」がすぐに期待できるかのような幻想をもたらす報道です。
多くの実験はその時々の科学研究の傾向や流行によって推進されますが、その研究が10年後、20年後にどうなったかを明らかにするものは何もありません。多くの動物実験は長期的にみた場合、税金を無駄使いし、資源の乱消費にすぎないこと、社会にとって益にもならないばかりか、かえって有害な側面があることなどを、私達はもっと知る必要があります。
動物を実験材料として使うという科学の研究方法は、実験している当事者でさえもその全体像がつかめないほど非常に広い分野に及んでいます。また、日本では動物実験に関するどのような法規制もないため、どのような場所でどのような動物を使ってどのような実験が行われているか、最低でもその実態を把握できる法的な仕組みを作ることが必要だと思われます。
動物実験は意図的に動物に痛みや苦しみを与える行為です。ふつうなら動物虐待として糾弾される行為ですが、それが、医学的な研究などの目的で行われ、人類の幸福と福祉に役立つ限りにおいては許されるものであるというのが一般の考えです。
しかし、そうであればなおのこと、他の動物虐待とは異なり、その行為の正当性を証明するための手続きが設けられていなければ不当というべきです。現在のように、いつ、どこで、誰が、どんな実験をしているか、実態をつかむすべもなく、何をやっても許されるというようであってはならないのです。
唯一、動物保護を規定している動物の愛護管理法があることから、この法律の改正に際し、動物実験に関して最低限、次の事項を盛り込むことが必要です。ちなみに、これは動物実験の中味にふみこむものではなく、まず実態を把握できる仕組みをつくることを前提として、その情報を国民に公開できる制度としようということです。
これは実験内容ではなく実験動物がどのように取り扱われているかを把握するというにすぎませんが、なぜか実験機関は、企業秘密や研究の競争性があるからという理由で、一切の実験を隠そうとしています。このような態度ではかえって一般社会の不信を感をよびおこすだけでしょう。
■実験動物取扱業者の届出(登録制)
(1)現行法では、動物取扱業は都道府県の届出制となっています。しかし、犬、猫、サルなどを売買・繁殖させている実験動物業者は、なぜかこの動物取扱業から除外されています。このような除外規定は法の公平性に反し、違法行為の温床となっています。他の動物取扱業と同じ扱いにすべきです。
(2)また、動物実験施設への動物の導入は、上記届出(登録)業者へ限定すべきです。そのことによって、猫取り業者や、違法捕獲業者による動物の密売をふせぐことができます。
■実験動物施設を届出制に
(3)動物実験を取扱う施設実験およびその管理責任者を地方自治体へ登録または届出制とすべきです。どこに実験施設があるかを知ることは、住民にとって公衆衛生上、感染症対策などの観点からも必要な情報です。(兵庫県では実験施設を届出制としている)
(4)実験施設は、病原菌や遺伝子組み換え実験など危険な研究をしているばかりでなく、大量の動物飼育による糞尿や死体の処理など、一般に不安感を与える施設です。自治体の担当職員による施設への立ち入り調査により、不適切な動物飼育、衛生や感染症対策の観点から自治体の職員(獣医師)がチェックする必要があるでしょう。
■動物実験の透明性を確保すべき
(5)国際的に動物実験の3Rの原則が提唱されています。
Reduction:使用数の削減、
Refinement:苦痛の軽減、
Replacement:代替法・動物を使わない方法への置き換え
この3Rの原則は、EUの法律をはじめ、OECD、OIEなどの国際基準として採用されています。
日本でも法律の中に明記することによって、実験者のモラルの向上をはかるべきです。
(6)動物実験委員会とともに倫理委員会を設け、その中に学外の一般人が参加するしくみを導入すべきです。諸外国の法律では手続きの透明性を確保するために第三者を入れるようになっています。
(7)記録の保持が義務づけられていないために、無駄な重複実験や失敗した実験が把握できず、経費や労力を無駄にしています。私立大学や企業をも含め記録を一定期間保持し、データベース化とするとともに情報公開をすべきです。
このような内容は、欧米諸国の法規制に比べれば、たいへん緩やかな内容にすぎません。それでも、それでも何もない日本の現状を変える第一歩となるにちがいありません。