農林水産省消費・安全局 御中
2004年8月2日
「有機畜産物の日本農林規格の制定案」に関する意見
当会は、畜産動物の健康と福祉の向上に向けて取り組んでいる市民団体です。
今回の有機畜産ＪＡＳ規格案は、日本では畜産分野で初めて動物の福祉に関する考えが取り入れられるものであり、今後とも、関係部局においてのこの分野における取り組みが前進することを大いに期待いたします。
以下、日本では、甚だしく遅れている動物福祉（Animal
welfare）の観点から意見を提出いたしますので、ぜひともご検討下さるようお願いいたします。
（１）有機畜産の生産の原則について
第２条に有機畜産の原則として「動物の生理学的及び行動学的要求を尊重して飼育」と述べていることを評価いたします。しかし、具体的に動物の生理的行動学的要求とは何をさすのかの定義がなく、イメージもわきません。一般市民にとっても畜産農家にとってさえ、この言葉の意味するものがどれほど理解される大きな懸念を覚えます。世界獣医学協会(WVA）や国際獣疫事務局（OIE）、国連農業食糧機関（FAO）などが採用している国際的な動物福祉の概念である「５つの自由」を記載し、第３条にその内容を定義しておく必要があると考えます。
ちなみに、コーデックスの指針においては「適切な収容密度、行動学的要求に応じた動物の飼養体系、及びストレスを最小限におさえ、動物の健康と福祉の増進、疾病の予防」等と具体的に記述されています。
（２）生産方法の基準について
1. 飼養施設の条件について
パブリックコメントの概要には、飼養施設の条件として「畜舎及び家きん舎は、生理学的及び行動学的要求を尊重した構造であること」と記載されていますが、第４条の本文では、記述に具体性が乏しく、特に行動学的要求についての記述が何もありません。
生理学的要求においては、温度、通風、太陽光の他にも、過度な湿気、騒音、振動を避けることや、突起物による傷害への配慮等も記載すべきです。戸外にあっては、炎熱、風雨、極寒、凍結、泥濘といった悪環境からの保護に関しても記載する必要があります。
行動学的要求については、原則には記述していながら基準に条文がないのは、矛盾しています。最低限でも、「動物が自由に立つ横たわる、向きを変える（家禽の場合は羽を広げる）といった日常的な動作を自由に行えることを可能にする」という記述を入れるべきと考えます。
この観点から見ると、別表５に記載されている家畜１頭当たりの最低面積があまりに狭く、これでは行動学的要求を満たすことは不可能です。例えば成畜の乳牛の場合４?（つなぎ飼いの場合は1.8?）、では、現行の集約畜産とどこがちがうのでしょうか。また、ホルスタインのような大型牛もジャージー牛も同じ基準というのも非合理的です。
家禽舎については、家禽１羽当たりの最低面積が0.1?とされていますが、この程度では鳥が羽ばたきできません。
国際基準では、有機畜産とは家畜の福祉に配慮した飼育方法を指すものとして定義されています。有機畜産においては家畜の行動学上の要求を満たすことのできる、慣行の飼育方法よりもはるかに広いスペースを与えることが必要です。（注：ＥＵ法では、慣行畜産における飼育スペースの最低基準を定めていますが、日本の有機畜産の基準がこれと同程度では、有機の名に値しないことになります）
一般消費者の立場からしても、この基準による有機畜産の農場を見学して、これが有機畜産だと説明されても納得しがたいものがあります。
農家の側からすれば、１頭当たりの最低面積を満たせばよいということで、経費削減のためにこの狭いスペースが標準化してしまうおそれがあります。今後国際基準に近づけるように見直しが行われるとしても、一度設備投資をして畜舎を建築してしまえば、また改修するには費用がかかります。
以上の理由から、今回の基準においては、この１頭あたりの最低基準（別表５）は削除されるように求めます。そして、今後、動物行動学や動物福祉学の学問的研究をすすめることにより、より科学的、倫理的に容認される基準が作成されることを希望します。
4. 一般管理について
原則として、野外の飼育場への自由な出入りが確保されていることは家畜の福祉にとって必要条件ですが、野外の自然条件についての配慮も必要です。屋外の運動場がぬかるみになり家畜が糞尿の汚泥につかってしまう例が見受けられます。蚊や蝿の発生、不衛生な環境は周辺住民への迷惑につながり、家畜自身も病原菌や寄生虫に侵されてしまうおそれもあります。野外へのアクセスは、快適な気象や草地などの好条件に配慮したものであることを明記すべきと考えます。
一般管理の７が輸送についての条項ですが、輸送上の注意事項が含まれていません。日本でも肥育やと畜のために長距離輸送が行われていますが、その間の休息、給水、取扱い等に関する条項を入れる必要があります。
一般管理の８が屠殺に関する条項ですが、これも緊張と苦痛を最小限にする方法についての具体的な記述が必要と考えます。
国際的な基準でも、輸送と屠殺の問題は詳細なガイドラインが定められています。別表として記述していただきたくお願いいたします。
（３）最後に
有機畜産は、日々の実践の中で改善されていくものであり、また学問的研究の知見の蓄積により基準も改定されていくべきものであると考えます。また国際的な基準もますます動物の健康と福祉の向上をめざすものとしてレベルアップされていくでしょう。３年から５年ごとの見直し規定も明記されるよう希望いたします。
野上ふさ子
地球生物会議（ALIVE)
添付文書（郵送）
１，ALIVEリーフレット「畜産動物のことを知りましょう」
２，ALIVE資料集13 「畜産動物の福祉」（2002.11）
３，ALIVE資料集19 「畜産動物の福祉に関する欧州協定と主なＥＵ法」（2004.8）
４，ALIVE会報 No.56 「畜産動物の福祉のために」（2004.5-6）
ALIVEの紹介 