さる8月28日、東京ビッグサイトで開催されたアグリフードEXPOという、国内農産物の生産者による展示商談会の招待状をいただき、見学に行きました。
http://www.jfawi.org/meeting/agriexpo2007.html(アニマルウェルフェアのパネル)
たいへん多くの生産業者が出展していましたが、特に、豚、肉牛、乳牛、それに鶏の飼育生産者のブースを中心に見て回りました。その中で、アニマルウェルフェアに対応した鶏舎で採卵鶏を飼育している丸一養鶏場さんのブースでリーフレットをいただいたことから、その会社に見学の申し込みをしたところ、ご快諾いただき、10月26日に3名で訪問することになりました。
同養鶏場は長らく慣行型のバタリーケージで10数万羽の採卵鶏をケージ飼いで飼育しているとのことですが、1年ほど前より新たな試みとして、アニマルウェルウェアの考えに基づいた鶏舎を建設しナチュラファームと名付けて、現在約7千羽を飼育しています。
http://www.maru1.com/
この鶏舎は、鶏の行動学に則って開発されたBig Dutchman社(ドイツ)製のシステム鶏舎です。EU諸国では、2012年に鶏のケージ飼いを全廃するという目標を掲げており、このタイプの鶏舎(エイビアリー)は広く浸透してきています。しかし、コストがかかるなどの理由で、このシステムを導入しているのは日本ではこの丸一養鶏場さんだけとのことです。
■動物福祉鶏舎のシステム
鶏舎は主に下記の5つのエリアに分かれています。鶏は鶏舎内を自由に動き回ることができ、自分の好きな時に、好きなエリアで過ごすことができます。以下が、各エリアごとの様子です。
(1)屋外運動エリア
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青空の下、土の上で自由に動き回れるスペース。
鶏インフルエンザや外敵の問題のために常時開放はできず、適宜開放しているとのことでした。
この日は雨で、夕方近かったためか、仕切りをあけても、鳥たちは外を眺めるだけで、出ようとはしませんでした。
屋根とネットで外部と仕切り、外敵から身を守りながら自由に動きまわれるスペース。
庭に面した壁の上部がすべて開放されており自然光と空気が入るようになっています。
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(2)屋内運動エリア
(3)産卵エリア
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鶏は朝になると卵を産む習性があります。暗くて身を隠せるような狭い場所を好んで産卵する鶏のために、カーテン状の幕と壁で外部と仕切った小部屋のようなスペースが産卵エリアです。
朝になると、ここに鶏たちがやってきて産卵します。
このエリアには同タイプの小部屋が建物を横断するように一列に並んでいるのですが、建物の両端に位置する小部屋に人気があり、鶏たちはそこに並んで順番を待って産卵をするそうです。 |
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この小部屋の床はゆるやかに傾斜しており、ここに産み落とされた卵が収卵スペースに自然に転がっていくようなシステムになっています。
産卵エリア以外に産み落とされる卵も見られましたが、その数は全羽数に対して数パーセント内で、鶏の習性の確かさを知りました。
ちなみに産卵エリア以外の場所に産み落とされた卵は、産卵日の確定ができないため、処分されているとのことでした。
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(4)給餌・給水エリア
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常に自由に水や餌を食べられるよう、給水機・給餌器とも、建物を横断するように設置されていました。
給水は、給水機のある部分をつつくと、水がお玉状の受け皿に落ちる仕組みになっており、鶏はどうやってその飲み方を覚えたのか分かりませんが、上手に水を飲んでいました。水を張った桶などから給水ができれば自然ですが、建物の中で密飼いをする上では、衛生面などから仕方がない方法なのかもしれません。
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ベルトコンベア状の給餌機が動き出し、餌が補給されると、鶏たちがざわめき、餌をついばみに集まってきました。
養鶏場の中では常に鶏たちの鳴き声がしていましたが、コンベアが動き出した時、それまでには聴こえなかった種類の鳴き声が聴こえてきました。それは、仲間に給餌を知らせる声のように思えました。
また、この給餌スペースの足元は、やわらかいプラスチック様の網になっており、下にこぼれた水や餌、そして排泄物が落ちる仕組みになっています。鶏が食べた後、排泄をするという習性を利用しているそうです。
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(5)休息エリア(止まり木)
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鶏は止まり木の上で休息し、眠る習性があります。その習性を満たすよう建物を横断して、何本もの止まり木が設置されていました。私たちが訪問した際も多くの鶏が止まり木に止まっていました。
一羽の鶏は、私の目の前で、案内して下さった丸一養鶏の一柳(専務)さんの腕に飛び移ってきました。
私たちは毎日卵を食べていても、鶏が飛んだり、木の上で眠る姿を目にすることはほとんどありません。ケージで飼われている鶏がいかに不自然な状態にあるかを知らされました。
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鶏には、集団内で序列をつくる習性があり、高い止まり木にとまっている鶏ほど、格付けが高いそうです。
この格付け行動で鶏同士がつつき合い、怪我をするのを防止するために、この鶏舎でもすべての鶏のくちばしにデビーク(鶏のくちばし先を切り取ること)を行っていました。このデビークは、鶏がストレスで他の鶏をつついたりすることを防止するために、ケージ飼いなど狭いスペースで飼育されている鶏には高
い割合でなされています。
デビークにより上手に餌を食べられなくなる鶏が出るなどウェルフェアの上で問題とされていますが、このナチュラファームでもデビークが必要とされていることは、畜産動物として限られたスペースで飼育されることの限界を見る思いがしました。
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ただ、ナチュラファームの鶏たちは、羽毛の艶がよく、身体全体がふっくらとしており、つつかれて羽毛が抜け落ちていたりするような鶏は見られませんでした。 |
このエイビアリーシステムは、あくまで採卵を目的とした経済的なシステムではありますが、限られたスペースの中で多数の鶏を効率よく、かつ鶏の欲求に沿って、欲求をできるだけ満たしつつ、その欲求を上手に利用するシステムでした。すべての鶏を平飼いや放し飼いにすることは、限られた土地の中では困難ですが、この鶏舎システムは、そういった経済的制約と鶏の福祉を上手く取り入れて考案されたものと実感しました。
なお、同養鶏場はインターネットで放し飼い鶏舎の様子を公開していますので、一般の方でも様子を知ることができます。ぜひ、ごらんください。
http://www.maru1.com/hpgen/HPB/entries/1.html
■バタリーケージ
ナチュラファームの見学の後、ケージ飼いをしているウィンドレス鶏舎も見せて頂きました。ウィンドレスの文字通り「窓のない」施設で、一日中薄暗い人工照明が灯る完全密閉式鶏舎です。こちらの鶏舎では、羽も広げられない小さなケージ(バタリーケージ)が5、6段の段重ねでどこまでも続いています。1つのケージの中で約6羽ずつ飼育されていて、1羽あたりのスペースは、ノートサイズくらいの広さしかありません。エイビアリーシステムの鶏たちは、絶え間なく声を上げていてにぎやかでしたが、バタリーケージの中は、ずっと静かでした。
餌や水は常に自由に飲めるようになっており清潔さも保たれていましたが、ケージの外側にある給餌機(コンベア状)に向って金網越しに餌をついばむため、金網で首周りの羽が抜け落ちている鶏が多く見られました。鶏に生き生きとした表情はなく、私たちに怯えているようで、多くの鶏がケージの奥へ尻込むようにしていました。
ケージ内には、もちろん止まり木はなく、おがくずが敷かれたやわらかい床もありません。高さは頭上ぎりぎりで、床は清掃の効率化のため細い針金状のものでした。そこで昼夜を問わず廃鶏となるまで卵を産み続けている鶏たちは、まさに卵を産む機械同然の生活をしており、喜びや安らぎを感じることができるとは思えませんでした。鶏たちの姿は、ナチュラファームの鶏たちとあまりにもかけ離れたもので、鶏の習性など全く無視されたシステムの中で飼われていると言わざるを得ません。
しかし、私たちが食べている卵のほとんどすべては、このようなケージの中で飼われている鶏によって産みだされているという事実を知らなければなりません。スーパーで販売されている卵で、「放し飼い」「平飼い」と明記されているもの以外は、ケージ面積の大小の差はあってもこういったケージシステムで飼育されています。ビタミン強化卵など、様々な付加価値を付けた卵もありますが、これは鶏に食べさせる飼料
の違いだけで、飼育システムに変わりはありません。
スイスでは10年以上前からケージ飼いが禁止されており、EUでも2012年までにこのケージ飼いを禁止する法律が成立しています。日本には、現在、そのような法律がありませんが、消費者の声が広がっていけば、いずれ日本でもこのケージ飼いを減らし、禁止していくことは不可能ではないと思われます。
■私たちにできること
養鶏場には卵の直販所がありました。アニマルウェルフェア型飼育の卵は、1パック10個入りで500円です。たしかに一般の卵と比べれば割高かもしれませんが、逆に言えば一般的な卵の価格があまりに安過ぎるのです。生産者がこの販売価格を維持するためには、ケージ飼いによる工場生産的な飼育形態は免れ得ないものとなります。
まずは今日から、価格が高くても「平飼い」「放し飼い」と表示された卵を選びましょう。それがケージから鶏を開放する第一歩になります。
息も絶え絶えのようなケージ飼いの鶏の安い卵を大量に食べる食生活から、生き生きとして健康な鶏の卵を大切に食べる食生活に転換することは、難しいことではないと思います。
また、本年より農水省・(財)畜産技術協会により「アニマルウェルフェアに対応した家畜の飼養管理に関する検討会」が行われています。採卵鶏については、現在、検討の最中で平成20年度中に飼養管理指針が策定されます。
養鶏農家に限らず日本の畜産農家は、飼料価格の高騰により経営がひっ迫しており、生産者からはアニマルウェルフェアへの対応は負担が大き過ぎるといった声が出ています。しかし、佐藤衆介氏の著作『アニマルウェルフェア 動物の幸せについての科学と倫理』によれば、「もし(日本で)EUなみのアニマルウェルフェア補助金を農家あたりの上限を設定せずに全頭羽に出すとすれば、概算で最大5773億円となる。しかし、その額は平成15年度農林水産省予算3・2兆円のたったの19パーセントにしかならない」とされています。国民の税金を、どこに使うのがいいのか、私たち納税者が考えてみなくてはいけないことだと思います。
アニマルウェルフェアは決して実現不可能なことではなく、実現されるべき課題ですが、そのカギを握るのは私たち消費者の選択です。
是非、皆さんの声を以下の検討会へ届けて下さい。
ケージ構造と収容密度
●ウインドレス鶏舎のケージ
ウインドレス鶏舎は、空気の流れと量を機械的に調節して通風をはかるため、高密度・多羽数飼育が可能です。採卵用の「自動ケージシステム」は、給餌
、給水、集卵、除糞などの自動化により、少ない労働力でも効率が高いという利点があります。
なかでも、間口50cm×奥行45cmの1画に5羽を収容した8段重ねのケージ方式で、収容密度が3・3平方メートルあたり約150羽という飼育形式が比較的多くみられます。
●開放鶏舎のケージ
開放鶏舎での自然換気では、通風の関係からケージの高さに限界があり、2段重ねのケージが主流です。採卵用には間口22.5cm×奥行39cm(鶏の居住部分)のケージに2羽を収容し、鶏舎内の収容密度は3.3平方メートルあたり25〜30羽の飼育形式が一般的です。
−参考ホームページ「畜産ZOO鑑」より