「動物の保護及び管理に関する法律」が制定されて26年後、私たちが長年の間求め続けてきた法改正が、今年の12月14日にとうとう実現しました。
臨時国会の会期末も差し迫った12月7日に改正案が衆議院の内閣委員会にかけられ趣旨説明のあと採択、条文に入れることのできなかった事項が委員会決議で読み上げられ、政府が「決議を尊重します」と述べて、わずか数分で改正案が通過しました。
超党派の議員立法であるため審議なしで、9日には衆議院の本会議を通過し、14日の参議院国土環境委員会で採択され、同日、参議院本会議を通過して成立の運びとなりました。法改正を求める全国の会員や支援者の皆さまの熱い願いがようやく一つの形となったことをご報告いたします。
積み残しも多い
当会等が求めてきた動物虐待の定義(特に動物の生理、習性に反した飼育方法)、違反業者に対する営業停止措置、動物の取扱や情報公開等に関する事柄等は、残念ながら積み残しとなり、法的拘束力のない委員会決議の中に、今後の検討課題として取り入れられました。
さらに、今回、動物実験に関する規制が今回まったくなされなかったことは、非常に大きな課題を残しました。諸外国では、動物実験は意図的に動物に苦痛や死をもたらす行為として、特に監視や規制が必要だとしています。
しかし、日本では、「動物実験は必要だ」という一言で、どんな残虐な実験も容認してしまうという傾向にあり、国際社会からますます大きな遅れを取ることになりました。幸い、五年後の見直し条項が入りましたので、積み残しの項目については今後重点的に実態の調査や情報の収集、勉強会を重ね、五年後の法改正に向けてさらに活動に取り組んでいきたいと思います。
会の活動と成果
ALIVEでは1996年の発足当初から法改正や条例の制定を活動の目的の一つにかかげ、様々な活動に取り組んできました。それは日々動物虐待や劣悪飼育の実態を目の前にして、日本には動物を守るシステムが何もないことを痛感してきたからに他なりません。
飼い主に捨てられた犬猫の殺処分や実験払い下げ、劣悪飼育による虐待の事例を調査したり(ビデオ作品『残された命』におさめて、全国の学校や図書館などに配布)、ペットショップチェックを呼び掛け、全国から悪質なペットショップの事例が多く寄せられたことも、法改正の必要性を強く裏付けるものとなりました。中でも、まったく規制のない動物園や各地で頻発する悪質な動物取扱業者の事件に関わり、機会ある毎に行政やメディア、議員の方々に、法規制の必要性を訴えてきました。
1997年4月には動物用医薬品メーカーの実験施設の犬猫440匹の放置事件で、犬猫の繁殖施設から売れ残りのペットが大量に実験用に流れていることを突き止め、実験動物業界の規制の必要性を訴えました。
1998年10月には、愛知県西尾市の犬の繁殖業者が100匹あまりの犬を劣悪な環境に放置し皮膚病で衰弱死させていた事件に取り組み、悪質業者への規制を訴えるともに、行政と会員の方々の努力ですべてを里親譲渡に出すことができました。
1999年5月には大阪市で取引も飼育も禁止されているオランウータン等の密輸事件が起こり、違法業者に対する厳しい取り締まりや法規制の強化を求めてきました。
1997年の10月には、動物の法律を考える連絡会に加盟し、法改正案の検討や事例の収集、勉強会、海外の動物保護団体へのアピール、メディアへの情報提供等を積極的に行ってきました。また地域の活動としては、チラシの配布や署名活動、パネル展、議員への働きかけなど全国の会員や支援者の方々が各地でたいへん熱心に取り組んで下さいました。
今後の課題と活動
このような多くの活動の成果として、ようやく今回の法改正が実現したことを心からよろこびたいと思います。しかし、動物実験の問題等積み残しの項目も多く、多くの課題もまた残されたままとなっています。米諸国の法律と比較すれば、まだまだ余りに遅れているという感が否めません。また、法律が改正されたからといって、すぐに動物虐待や悪質飼育がなくなるわけではありません。この法律がどのように効果を発揮できるかどうかは、ひとえに私たち市民の力にかかっています。
来年以降、法改正により都道府県が条例を制定したり改正することになりますので、地域での行政への働きかけがますます重要になってきます。今後、この法律を十分に活用していくためには、動物達の苦しみに思いやりの心を持つ多くの人々の関心と関与が必要不可欠です。実効力のある法律の運用と、積み残された部分の新たな法改正に向けて、心機一転、またがんばりましょう。法改正運動について、全国の皆さまからたくさんの署名やお手紙、FAXをお寄せいただきました。暖かいご支援とご協力に重ねて御礼と感謝を申し上げます。
- ※当会では、資料集No.5「海外の動物保護法・1」で、EUの動物保護に関する諸条例や協定などを紹介しています。近日中に、英国の多岐にわたる動物保護法(動物虐待、動物実験、野生動物、畜産動物、コンパニオンアニマル等)を網羅した資料集「海外の動物保護法・2」を出す予定です。海外の法律と比較した場合、日本の法整備がいかに遅れているかがわかります。ぜひ、ご参照下さい。
ペット中心の法改正
今回の法改正は主にペット動物の愛護と管理に関する部分が大幅に強化されたということができます。国会に出された改正の背景と、改正の骨子は次のように述べています。
[改正の背景]
- 高齢化社会に向けたペットの伴侶動物としての重要性や幼児児童教育における動物とのふれあいの重要性の認識の高まり。
- ペット動物等の虐待が社会的に注目される。
- 神戸の通り魔殺人少年による猫虐待。
- 愛知県の犬繁殖業者が約100匹の犬を劣悪な環境に放置など。
- 罰則が軽い。悪質な動物取扱業者へ規制がない等、現行法では有効な対応が困難。
- [改正案の骨子]
- 動物(家畜や実験動物を除く)取扱業者に対する規制の導入。
- 実態把握のため届出の義務付け。必要な場合の立入検査、改善勧告、命令。
- 条例による上乗せ、横出しを法に規定
ペット等の殺傷や遺棄の防止、罰則の強化による取り締まりの有効化。
- 安易なペット化により遺棄が目立つ爬虫類も対象に追加。
- 罰則の強化によりみだりな殺傷や遺棄が犯罪であることを社会的に周知し、その未然防止を図る。
飼い主の責任の強化と適正飼養のための指導や普及啓発の推進。
地球生物会議(ALIVE)資料集 動物保護法【国内編】