ALIVEが取り組んできた動物愛護法の改正が、2012年8月29日、ついに成立。今回の改正で、私たちが求めてきた事項の多くが実現しました。法律の運用の詳細については、今後1年をかけて行われる環境省令の整備に注目を。
野上ふさ子 ・ 東さちこ
1.動物取扱業の規制強化
今回の改正で最大の成果は、動物取扱業に対する規制強化を実現できたことです。特に犬猫の繁殖、販売については、法律がきちんと運用されれば、この業界のレベルを大幅に向上させ、刷新させるものとなるでしょう。
(1)犬猫等販売業に対する規制強化
まず、現在の動物取扱業は、全て「第一種動物取扱業」となります。そして、その中でも特に、犬猫等を販売する業者については、以下の事項が新たに義務づけられることになりました。(対象には、販売のための繁殖をする者も含まれます。また、犬猫以外の動物の範囲は、環境省令で定められることになっています。)
@犬猫等販売業者は、幼齢個体の安全管理や、販売が困難になった犬猫等の扱いに関する「犬猫等健康安全計画」を策定し、それを遵守しなければならなくなりました。
この計画が、環境省令に定める基準に適合しなくなったときにも登録の取消しができることになっていますので、適正に運用されれば、業者の不適正飼養をかなり制約する規定になるといえそうです。
A犬猫等の健康や安全を確保するため、獣医師等と適切な連携の確保を図らなければならないとされました。
B販売が困難となった犬猫等についても、やむを得ない場合をのぞき、終生飼養の確保を図らなければなりません。
C犬猫等の繁殖業者に対しては、生後56日を経過しない犬猫の販売のための引渡し、展示が禁止されました(販売のための引渡しには、業者に対するものも含む)。
ただし、この「56日」という日齢については、附則によって、施行後3年間は「45日」と読み替えるものとされ、さらにその後、別に法律で定める日までの間は「49日」と読み替えるものとなってしまいました。いわゆる経過措置(激変緩和措置)です。
さらに、いつ読み替えが終わるのかについては、科学的知見を集め、施行後5年後までに検討するものとされ、そのための予算措置も行われるとのことです。
D犬猫等の所有状況について、個体ごとの記録・報告の義務が課せられます。条文の「所有するに至った日」には、生まれた日も含まれます。
(2)販売時の現物確認・対面販売など
@動物取扱業者は、感染性の疾病の予防措置を適切に実施しなければならなくなりました。また、廃業する場合を含め、動物の販売が困難になった場合には、譲渡などの適切な措置をとらなければならなくなります。
A犬猫等を販売する際の、現物確認・対面販売が義務づけられました。これによってインターネットのみの販売はできなくなりますが、環境省令によって、「対面に相当する方法」を別途定めることになっていますので、今後注意が必要です。
(3)関連法違反で業の取消しへ
密猟・密輸など、動物問題は様々な分野に関わっていることが多いにも関わらず、法律や行政の縦割りの弊害のために、何の対策もとられないことがしばしばです。関連法との整合性はとりわけALIVEが長年強く要望してきたことで、ようやく実現の運びとなりました。
対象となる関連法としては、化製場法、狂犬病予防法、種の保存法、鳥獣保護法、外来生物法の関連条項が規定され、これに違反し、罰金刑以上を受けた場合には、第一種動物取扱業の登録の拒否や取消しができるようになりました。登録の拒否や取消しの対象となる期間は、刑の執行を終えたときから、2年を経過しない場合です。
(4)第二種動物取扱業の新設
飼養施設を設置して動物の譲渡、展示等を行う者を「第二種動物取扱業」とし、法律で定められた事項の届出義務が課されました。いわゆる譲渡団体のシェルターや、公園の展示動物などが対象とのことです。譲渡する動物の自宅での預かりは除外されます。
ただし、どういった飼養施設が対象となるのか、何頭以上飼育する施設が対象なのか等の詳細は、今後、環境省令によって定められることになります。
自治体に届出をしなければならない事項は、取り扱う動物の種類・数、飼養施設の構造や規模、管理方法等です。
2.多頭飼育崩壊の予防措置
全国各地で起こる多頭飼育の崩壊は、行政や愛護団体の労力を乱費させる大きな問題でしたが、ようやく具体的な対策がとられることとなりました。
@勧告・命令の対象となる生活上の支障の内容が明確化されました。具体的には、多頭飼育によって生じる騒音、悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等です。
A多頭飼育によって動物が衰弱するなどの虐待を受けるおそれが生じている場合にも、命令が出せるようになりました(勧告をはさんでもよい)。今まで、動物のためには命令・勧告を出せませんでしたが、改善されることになりました。
B条例に基づいて講じることができる施策の中に、多頭飼育者に対する届出制度が盛り込まれました。
3.犬猫等の引取り拒否が可能に
自治体は、犬猫の所有者から求められた場合には、引取りをしなければならないことに変わりはありませんが、犬猫等販売業者から引取りを求められた場合や、終生飼養の責務に照らし合わせて相当する理由がないと認められる場合には、引取りの拒否ができるようになりました。
これは、長年の市民の要望がみのった形です。
ALIVEも、営利目的で犬猫を繁殖している業者に対して行政がサービスを行うのはおかしいと主張してきましたので、業者への引取り拒否が違法ではないと明確になったことを歓迎しています。
今回の改正では、動物の所有者・占有者に対して、できる限り終生飼養に努めるべきという責務が定められましたので、その趣旨から引取りを求める理由にあたらないとされる場合については、別途環境省令が定められることになっています。
4.災害時における動物救護
東日本大震災での経験などを受け、以下の改正が行われることになりました。
@都道府県の定める動物愛護管理推進計画の中に盛り込むべき事項として、災害時における動物の適正な飼養・保管に関する施策が追加されました。
A動物愛護推進員の活動として、災害時における動物の避難、保護等に対する協力が追加されました。
5.動物福祉、その他
@法の目的を定める条文の中に「動物の健康及び安全の保持等」の文言が盛り込まれました。これは、動物の福祉を意味します。また、法の目的は従来どおり、人間のために動物を愛護する気風を招来し、動物による侵害から人間を守るという人間中心のものですが、今回、「人と動物の共生する社会」の言葉が加わることによって、動物のためでもあることが間接的に示されたと解釈できます。
A基本原則には、「飼養する動物に対する適正な給餌給水、必要な健康の管理、その動物の種類、習性等を考慮した飼養または環境の確保」が加わりました。動物福祉の国際原則である5つの自由の概念を盛り込むべきところでしたが、そこに近づけようとする試みにはなっています。
B動物の所有者・占有者の責務にも以下の点が追加されました。
・逸走を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
・できる限り、終生適正に飼養するよう努めなければならない。
・みだりに繁殖して適正に飼養することが困難とならないよう、繁殖に関する適切な措置を講ずるよう努めなければならない。
C特定動物の飼養許可にあたっての申請事項に、「飼養が困難になった場合の対処方法」が加わりました。
D動物愛護担当職員・動物愛護推進員に対する研修の実施や、動物愛護行政と警察との連携の強化について、国から地方自治体に対し、必要な情報を提供するよう定められました。
E動物虐待等を発見した場合、獣医師には、通報努力義務が課されることになりました。
6.虐待の定義と罰則強化
法律に虐待の定義がないため、動物虐待がなかなか立件されませんが、これについても具体的な例示が追加されました。ネグレクト事例への虐待罪の適用もしやすくなるはずで、今後はこの条項を活用し、行政や警察を動かしていく必要があります。
@酷使や疾病の放置なども、虐待罪の対象として明記されました。排泄物が蓄積していたり、死体が放置されていたりする施設での飼育も虐待になります。
A罰則の引き上げも行われます。
・愛護動物の殺傷、虐待…2年以下の懲役または2百万円以下の罰金に引き上げら
れます。しかし、器物損壊罪と同等の3年以下は実現しませんでした。
・遺棄…百万円以下の罰金に引き上げ。
・無登録での特定動物の飼養等…罰金については、百万円以下に引き上げ。
・無登録での第一種動物取扱業の営業等…百万円以下の罰金に引き上げ。
また、法人が違法行為を行った場合の罰則規定に、特定動物の無許可飼養等に対する5千万円以下の罰金刑が追加されました。
第二種動物取扱業についても、無届けや、虚偽の届出については、30万円以下の罰金の対象となります。
さらに、以下の罰則が新設されました。
・劣悪多頭飼育者への命令違反(50万円以下の罰金)
・動物の死亡について、第一種取扱業者が検案書または死亡診断書の提出を命じられたのにもかかわらず、それらを提出しなかった場合の命令違反(30万円以下の罰金)。
・第二種動物取扱業者の命令違反(30万円以下の罰金)。
その他、附則には、経過措置や、販売される犬猫等へのマイクロチップ装着義務を検討するための規定が入っています。
なお、現行法ではひらがな表記となっている「ねこ」についても、今回の改正によって全て漢字表記に改められました。
今後のスケジュール
施行日は、公布の日から1年を超えない範囲内とされましたので、来年の9月1日の可能性が高いと言われています。
政省令等改正については、すでに環境省の動物愛護部会でスケジュールが示されており、来年3月までに7回の部会開催と2回のパブリックコメントが予定されています。
約9万名の国会請願署名を全て提出いたしました
ALIVEでは、衆参両院の国会議員を通じて、2種類の請願署名を順次国会に提出してきました。ご協力をたまわりました紹介議員の数は計31名に達し、8月中には全て提出を完了しました。
ご協力くださいました皆様に、改めてお礼申し上げます。
■動物愛護管理法改正に関する請願
受理数:4万6,102名分
■動物虐待への対策強化に関する請願
受理数:4万3,160名分
合 計:8万9,262名分を提出
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