鳥獣保護法の一部改正案が衆議院の環境委員会を通過し、6月8日の衆議院本会議で可決成立しました。
各審議の詳細は、参議院、衆議院のホームページから、録画記録、及び議事録で見ることができます。
改正案質疑のトピックは、別途、ご紹介いたします。
■審議の経過(164国会)
鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の一部改正案
4月27日 参議院環境委員会<質疑>
・橋本聖子議(自民)
・岡崎トミ子議員(民主党)
・大石正光議員(民主党)
・加藤修一議員(公明党)
・市田忠義議員(共産党)
・荒井広幸議員(新党日本)
5月8日 参議院環境委員会<参考人質疑>
・金森弘樹氏:島根県中山間地域研究センター鳥獣対策グループ科長
・坂田宏志氏:兵庫県立大学自然・環境科学研究所生態研究部門助教授
(兵庫県立人と自然の博物館動物共生研究グループ)
・吉田正人氏:江戸川大学社会学部教授(野生法ネットワーク世話人)
・羽澄俊裕氏:(株)野生動物保護管理事務所代表取締役
5月9日 参議院環境委員会<質疑、採決>
・岡崎トミ子議員(民主)
・鰐淵洋子議員(公明)
・市田忠義技委員(共産)
・荒井広幸議員(新党日本)
民主党より修正動議の提出と趣旨説明および賛成討論ののち否決
・附帯決議(全会一致)
5月30日 衆議院環境委員会<質疑>
・馬渡龍治議員(自民)
・篠原孝議員(民主)
・田島一成議員(民主)、
・富田茂之議員(公明)
6月6日 衆議院環境委員会<参考人質疑>
・寺本憲之:滋賀県東近江地域農業改良普及センター
・草刈秀紀氏:WWFジャパン(野生法ネットワーク世話人)
・辻岡幹夫氏:栃木県烏山林務事務所
6月6日 衆議院環境委員会<質疑、採決>
・田島一成議員(民主党)
民主党より修正動議の提出と趣旨説明および賛成討論ののち否決
・附帯決議(全会一致)
6月8日 衆議院本会議で成立
同日 野生生物法ネットワーク世話人団体よりプレスリリース
野生生物保護法制定をめざす全国ネットワーク
プレスリリース
2006年6月8日
本日、鳥獣保護法の改正案が衆議院本会議で可決成立
鳥獣保護法の抜本的改正はならず
~舞台は、国会から鳥獣保護管理小委員会へ~
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」(以下、鳥獣保護法とする)の改正案が参議院・衆議院の各環境委員会における質疑を経て、本日、衆議院本会議にて政府提出法案のとおり可決成立した。ただし、参議院、衆議院ともに、懸念すべき事項があるとの認識のもと、与野党が合意して附帯決議がつけられ
た。
鳥獣保護法は、もともと明治時代に制定された「狩猟法」に由来をたどるため、幾度もの改正を経てもなお、昨今の野生鳥獣を取り巻く状況の変化になかなか対応しえていない。
そのため、1999年の改正の際には、政府案をめぐって大議論が行なわれ、多数の附帯決議がつけられることで、ようやく成立をみた。
3年後(2002年)の見直しでも、附帯決議の履行状況を評価するには経過した年数が短く、適切に評価しえないという理由で、抜本改正が見送られた。
そこで、4年後の今国会で、附帯決議の履行状況を点検し、1999年、2002年に問題とされた事項がしっかりと検討され、抜本改正されることが期待さ
れていた。そのために、WWFジャパン、日本自然保護協会、日本野鳥の会などいくつものNGOが連帯し、「野生生物保護法制定をめざす全国ネットワー
ク」として、早くから9つの提言をまとめ、政策決定者である政府や与野党議員に伝えていた。これら提言は、冊子にまとめられてマスメディアにも公開され
た。また、同ネットワークは、あるべき法改正を求めて、今日(こんにち)の野生鳥獣をめぐる問題点を洗い出す緊急集会を、法案の国会上程に先立って開催
した。
われわれNGOの提示した論点は、専門的人材を育成し配置すること、狩猟に関して法規制のない「乱場」をなくし、整然とした管理猟区制度に転換すること、個体数の調整に偏した特定鳥獣保護管理計画から、生息地管理・被害管理もバランスよく取り入れた広域的地域管理計画に衣替えすること、本法の目的に矛盾する80条を削除すること、危険で残酷なわなであるトラバサミを全面禁止し、くくりなわも厳しく規制すること、鳥獣の輸入を原則禁止とすること、などであった。
参議院、衆議院の環境委員会では、これらの観点に立ち、岡崎トミ子議員、荒井広幸議員、田島一成議員などから的確な質問が政府に対してなされ、多くの問題点が浮き彫りにされた。また、参議院・衆議院とも、NGOは参考人として招致され、意見陳述の機会を得た。しかしながら、与党優位の現況下、政府原案のとおり可決成立することとなった。
今回の政府案の要点は、休猟区における特定鳥獣の捕獲に関する特例制度の創設、「網・わな猟免許」を「網免許」と「わな猟免許」に分けることなど、野生
鳥獣の捕獲規制の緩和が目立つ。減少し、高齢化が進む狩猟者に代えて、被害対策の一環として、農林業者にもわなの設置をしやすくし、問題解決を図るかのように見える。しかし、鳥獣保護管理の担い手を育成し、確保するという課題は、手元に残されたままである。捕獲数制限のための入猟者承認制度の創設や、わなに係わる危険を予防するための措置、猟具設置者の氏名等の表示義務など、一定の配慮が見受けられはするが、法律そのものはごく小さな改正にとどまった。
国会の質疑で気にかかったのは、田島議員からも指摘されたとおり、過去の附帯決議の履行状況が悪く、懸案事項の解消が進んでいない点である。
「国権の最高機関」である国会で付けられた附帯決議の大半が、7年にもわたって、事実上の棚上げ状態にあることはたいへん遺憾である。
環境省は、これから幾度かに分けて中央環境審議会野生生物部会の下に設置する「鳥獣保護管理小委員会」を開催し、新たな基本指針を策定する中で、適切な
取り組みをする考えでいる。「第10次鳥獣保護事業計画の基本指針」の策定作業などにおいて、野生鳥獣の科学的で計画的な保護管理施策の実現に向けた前
進が見られることを期待したい。政府は国会答弁(衆議院環境委員会)でNGOの参画も約束しており、この点を前向きに捉え、力を尽くしたい。
国会で繰り返し議論された専門的人材の育成・確保についても、環境省は、専門的知見を有する者や団体などを登録し、活用する制度の構築をもって対応する
考えを示しており、その確かな実行が待ち望まれる。
2002年の法改正で、鳥獣保護法の目的に「生物多様性の確保」が盛り込まれたが、これには他省庁と も連携を図りながら、環境省がイニシアティブをとる他はないと考える。
今回の法改正は、鳥獣保護法というよりも、鳥獣被害対策法のような議論に終始した感がある。同法の改正にあたって当初期待されていたことが、これからどれだけ実現できるのか、舞台は国会から鳥獣保護管理小委員会に移ることになった。
一方では、野生鳥獣に関する法律としては、鳥獣保護法以外にも、種の保存法や外来生物法などがあるが、個別法ではさすがに対応に限界がある。野生鳥獣を幅広く扱い、その保護に関する基本理念を示したもっと包括的なアンブレラ法(かさとなるべき上位法)が求められているとも言える。すなわち、われわれNGOが市民立法として策定し、超党派で国会への上程を求めている「野生生物基本法」のような基本法の制定を本格的に検討し、わが国の野生鳥獣に関する法体系の整備を求めていく予定である。
※「野生生物保護法制定をめざす全国ネットワーク」は、WWFジャパン、日本自然保護協会、日本野鳥の会、地球生物会議、イルカ&クジラ・アクション
ネットワークなど全国にある45の団体から構成されています。
2006年鳥獣保護法改正案
トラバサミ・ククリワナの禁止を求める署名