「有害鳥獣対策特別措置法」(鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置法)が、2007年12月11日、衆議院農林水産委員会で、わずか数分で全会一致で通過し、午後の衆議院本会議で成立しました。
議員立法なので、国会での質疑はまったく行われず、私たちが指摘してきた、この法案のどこに問題があるかは、明らかにされることはありませんでした。
13日には、参議院にかかり、同日成立の見込みです。
どの政党も、次の衆議院選挙で農村の支持票を得たいがために、このような結果になってしまったと考えられます。
「有害鳥獣対策特別措置法」が国会にかかり、公明党も同意、野党の協力を得て、議員立法として成立しました。議員立法の場合は、国会での質疑が行われない場合が多く、一般国民が知らないうちに法律が成立してしまいす。
この法案は、もともと自民党の有害鳥獣対策議員連盟が、自衛隊を投入して被害を起こしているイノシシ、シカ、サル、クマなどを一気に大量捕獲するという案を出していました。法案の重点は、
1、被害対策計画を作った市町村では、独自に捕獲できるようにすること、
2、有害鳥獣捕獲隊を設置し、捕獲に熱心な人(退職した自衛隊員を含む)などを非常勤職員として捕獲させること、
3、捕獲(駆除)個体を積極的に利用すること、
の3つにあり、この条項のみが非常に具体的です。
1についての懸念は、市町村に駆除の全権をもたせるということです。
これまで、鳥獣の捕獲は、環境省所轄の鳥獣保護法に基づいて、主に(1)狩猟、(2)有害駆除(行政による許可)に限り認められてきました。
有害駆除は農作物被害対策として、捕獲以外に方法がない場合に限り、都道府県等が捕獲を許可するというものです。
一方、この有害鳥獣特措法は、農林水産省の所轄の法律であり、被害防止計画を立てた市町村では許可なく(自分で自分に許可を出す)
、駆除できるようにするというものです。
ただでさえ、縦割り行政の弊害で、鳥獣保護のための総合的な施策が できない状況なのに、この特措法で、駆除行為を別の法律に分けてしまうことは、
さらに現場を混乱させ、無法状態を作り出すことになるでしょう。
これまでも、毎年のように市町村におけるニホンザルの違法捕獲事件が起こっていますが、これも市町村の職員が法律を守ろうとせず、現場では何が起こっているかさえ把握できていないことが原因です。
現段階でしっかりとした監視や評価、検証ができる制度を入れておかないととんでもない法律となりかねません。
2については、これまでの狩猟者(ハンター)頼みではなく、狩猟者の指導の下に有害駆除隊を組織し(狩猟免許を持たない者を含む)、積極的駆除に乗り出そうというものです。長寿の生態や行動についての知識や経験のない人々が、単に鳥獣憎しで動くことは危険に思われます。
3について、イノシシやシカの肉を積極的に利用するということですが、野生動物の食肉処理場もなく、感染症や食中毒のおそれもあります。また、商業ルートを作ってしまうと、被害がなくなっても、需要を満たすために捕獲が行われることになりかねません。
さすがに、このままでは「駆除促進法」にすぎないため、批判をかわすために、条文の末尾に、当会らが求めてきた事柄が付け足しのように、添えられています。
・生息状況の調査
・調査研究、技術開発の推進
・人材の育成
・生息環境の整備および保全(広葉樹林の育成など)
残念ながら、環境省とも縦割り行政のため、実効性に乏しく、実施できるのか懸念されます。
イノシシ、シカ、サル、クマ等の捕獲数はここ10年で2倍から3倍にも増えています。これほど捕獲しているにもかかわらず、被害が減少していないとのことですが、これは捕獲数が足りないからではなく、被害対策が間違っているのではと考えられます。
野生動物による被害問題は、単に捕獲すれば解決するものではなく、中山間地の過疎化や耕作放棄地の増加、山林の人工林化など、人間社会の変化や、生息環境の悪化などが大きな要因です。
また、「被害」という症状が出ると直ちに捕獲(駆除)という方法に頼り、被害の原因分析から有効な対策を検討し、その技術を指導する人材(獣害医)がいないことが、もっとも大きな問題です。
さらに、農山村では人口の減少と高齢化によって増えている耕作放棄地が野生鳥獣を招き寄せていることや、人工林化によって野生動物の生息地が奪われてしまったことも国の政策の失敗からきています。
今後は、駆除のみに頼る被害対策ではなく、
・野生動物の生息地の回復
・被害防除技術の開発と人材の育成
・魅力ある農山村の活性化
・野生動物の保護のための財政措置
・被害を受けている農家等への公的保障
等のための法律や政策を打ち出していただきたいものです。
----------- 以下、新聞記事 ----------
イノシシやシカなどによる農作物への被害対策を進める「鳥獣被害防止特措法案」について、与野党は10日、今国会で成立させることで合意した。成立すれば、市町村に、駆除など被害防止策の主導権をもたせ、防護さくの設置などで自衛隊に協力を求めることも可能になる。農村には歓迎の声が大きい一方で、環境NGOは「安易な駆除を防ぐ仕組みが不十分」と反対している。
自民、民主両党で合意した法案では、鳥獣駆除の許可権限を都道府県から被害現場に近い市町村に移す。市町村は、職員やハンターらをメンバーに被害対策実施隊をつくり、鳥獣の捕獲、防護さくの設置などを進める。地方交付税を拡充して、財政的な支援もはかる。
民主党の求めで、環境相が農水相に意見を言える項目などを盛り込んだ。
これに対し、世界自然保護基金(WWF)ジャパン、自然保護協会など44団体は、「環境の専門家が少ない市町村がバラバラに駆除すれば、安易な駆除が増え、地域個体群の壊滅につながりかねない」と反対している。