★業界関係者が密輸

2000年４月に、日本で大量の象牙の密輸事件が起こりました。逮捕されたのは香港出身のブローカーと日本の象牙加工業者の２人でした。その量も約500キログラムと、1991年に沖縄県で押収された798キロに次ぐ史上２番目の量でした。

野生動物の密輸は武器と麻薬に次ぐ３大品目で、国際警察機構も重大な環境犯罪として各国政府の対応を促していますが、日本では未だに野生動物の密輸が頻発し、しかも発覚するのは氷山の一角と言われます。きちんとした規制手続きを設けていると主張してきた象牙輸入国の日本でさえ、このような状態なのですから、アフリカなどの輸出国で違法行為を防止するのはさらに困難であるでしょう。

野生動物の商業利用で利益を上げようとする業界は、消費者に買ってもらわなければ話にならないので、購買意欲をあおるようなキャンペーンを行い、消費を促進しようとします。しかし、このようなキャンペーンは、場合によってはかえって逆効果になります。密輸の頻発により、象牙取引や希少野生動物の取引にはダーティな印象があり、社会的にもモラルのない産業として忌避されるようにもなりかねません。

★流通に多大なコスト

象牙の商業利用は、物価の高い日本のような国での消費者が購買しなければ成り立ちません。密猟、密輸、違法流通を監視するためには莫大なコストがかかり、それが象牙の価格に上乗せされていることになります。直接ゾウの生息環境の保全や地元の人々の利益につながっているならまだしも、違法行為対策で価格が高くなっているような商品を、消費者がいつまでも支持するという保証はありません。

また、ますます巨大化するグローバル経済体制の中で、消費者が、象牙の消費によってゾウを守り、現地の人々を豊かにできるなどという実感を得ることはほとんど不可能です。

逆に、いわゆる先進国における消費行動が、途上国の社会的不平等や南北格差、環境問題などを悪化させていることが多々あります。消費者が、その購買によって途上国の経済や地元の人々を支援することができるとしたら、それを実感できるのはフェアトレードの場合のみでしょう。

★利益は還元されない

商業利用は利益追求を目的としていますが、その本当の利益が犠牲となるゾウや野生動物の保護のために還元されることはほとんどありません。象牙などのように大きな市場があり、込み入った流通ルートがある場合は、その利益は中間業者や時には違法業者、あるいは地元の支配層や特権階級をうるおすだけでしょう。消費者は流通、あるいは他国の社会的、政治的制度に関与できないのですから、自らの消費行動を問い直すしかありません。

消費者にとって、象牙や野生動物由来の製品は必需品ではなく、印章も代替物が存在します。多くの消費者はあえて希少な野生動物を犠牲にしてまでぜいたくや嗜好のためにその製品を消費しようとは思わなくなりつつあります。またゾウの保護や現地の人々の支援が必要であることが認識されれば、象牙などを買うよりは、直接現地のＮＧＯを支援した方がはるかに効率的です。

★野生動物の商業利用は持続性に乏しい

野生動物は自然の生態系の一員です。ゾウなど特に生態系の要にある特定の種を商業利用することは過剰捕獲を引き起こし、生態系のバランスを壊す要因となります。

歴史的に見ても、野生生物の商業利用は生物多様性に破壊的なダメージを与えてきました。また、野生動物の生存は自然の変動に大きく左右されます。それに依存する産業は不安定であり長期的な持続性に乏しいものです。