動物から人間へ疾病が感染する機会は世界中で日常茶飯事のようにある。しかし、多くの場合、人畜共通感染症に感染する危険を減らすための予防はほとんど講じられていない。
この問題について検討するため、ローマの世界食糧農業機構(FAO)、ジュネーブの世界保健機構(WHO)、パリの国際獣疫事務所(OIE)は昨年11月、1ヶ月に渡る電子会議を開いた。この会議には700人が参加し、特に発展途上国における人畜共通感染症管理の向上方法などについて情報や意見を交換する場を提供した。参加者は主に保健衛生の専門家、政策立案者、学者、研究者などだった。
この会議についての詳しい内容は以下のサイトで読むことができる。
www.fao.org/ag/aga/agah/VPHeconf/home.htm
多くの場合、感染の危険がある病原体についての地域住民の知識を高めることが重要で、これが実際に感染を減らす対策へとつながっていく。しかし、必要な情報の入手がェ困難なことが感染症管理の大きな障害となる場合がある。
人畜共通感染症の知識をもつ先進国の獣医師が、今よりも精力的に発展途上国の同僚を支援するべきだという獣医師もいる。具体的にはそういった麹国の同僚
を支援するべきだという獣医師もいる。具体的にはそういった麹曹ナの獣医師会の編成や国家による人畜共通感染症センターの設立などが含まれるだろう。
オンライン・カリキュラムや電子メール、メーリングリストを通じてのコミュニケーションが教育をより普及させることもあるが、これもすべての状況に当てはまるわけではない。
「このフアプローチの主な問題のひとつは適切なインフラストラクチャー(基礎構造)が整備されていないことだ。アフリカではほとんどの人がインターネットにアクセスするのは大変な作業で、時間がかかり、結局アクセスできず終いなのもしばしばだと不満を持っている。西側の国の人==Xが当然のように思っているインフラが存在しないか、メインテナンスがお粗末で機能しないからだ」と南アフリカ共和国、プレトリア大学疫学部主任教授ブルース・グモウ博士はいう。
会議の他の参加者は国連のFAOやWHOに加えて、OIEなどの国際機関がより積極的に関与するこbとが必要だという。このような機関はインターネットなどに必要なインフラを整備するとともに、インターネットの利用法を教える、あるいは、他の手段によって例えば新しいワクチンに関する情報などを配布することができる。
多くの参加者が発展途上国における人畜共通感染症管理をどう向上させるかについて提案をする一方で、世界規模で存在する問題についても取り上げた。例えば、すべての国において医学界と獣医学界のさらなる協力とコミュニケーションが必要だという意見が多く出た。
「1999年の、ニューヨークでの西ナイル・ウィルスの領領領領流行と今回のアメリカでの炭素菌事件の経験から、医学と獣医学がひとつであることを私たちが学ばなければ望みはありません。医師と獣医師が国レベルでも地域レベルでも密に連絡を取り合うことが重要です」とコロンビア大学の感染症管理責任者キャドラー博士はいう。
問題は滑ヌ理レベルでも存在する。カナダのオンタリオ州で新任の衛生局長が赴任した際、(衛生局で)獣医師が何をしているのかと不思議がっていたそうだ。
また、農業機関と保健衛生機関も今よりも密な関係を築かなくてはならないと多くの参加者が述べている。
さらに、レポートは獣医学校が人畜共通感染症と公衆衛生についての教育にもっと時間を割く必要性を認めている。「マレーシアでのブタのニパウィルス感染や南部アフリカでのクリミア・コンゴ出血熱などといった最近の人畜共通感染症の流行は、このような新しい疾病に人間が感染する危険性を改め゚゚゚て示唆するものだ。獣医学のカリキュラムすべてに、単位修得用や選択科目、あるいはこの問題にある学生のためのものだけではなく、主要科目として獣医公衆衛生を入れるべきだ」とナミビアの獣医師はいう。
最近の人畜共通感染症の流行を考慮するとこの会議は時宜にかなっbたものであり、いくつかの国で危険が高まりつつあるという差し迫った状況を考えれば適切でもあった。
南アフリカのようにエイズの流行に悩まされている地域では免疫力の低下した人々がこのような疾病に感染する危険が増しており、グモウ博士は感染症の流行がまもなく起こるのではないかと危惧しているという。
Journal of the American Veterinary
Medical Association
ブタ肉:危険な菌の感染源
ALIVE海外ニュース 2002.3-4 翻訳:宮路
食品の安全性に関する最近の研究によるとブャ^肉は鶏肉よりも人体に危険な菌を保有している可能性がある。
この研究データは、昨年12月にアメリカのシカゴで行われた、アメリカ微生物学会主催の抗菌薬剤と化学療法に関する会議で発表された。
米国厚生省疾病管理・予防センター(CDC)の研究者チームが5つの州でそれぞれ別の小売店から購入した約600個のパック入りブタ肉を検査したところ、食中毒の大きな原因で抗生物質に耐性を持つ腸球菌に汚染されているものが見つかった。人間が耐性腸球菌に感染した場合の死亡率は37パーセントだという。
ひき肉では全体の3パーセントが腸球球球給ロに汚染されていたが、ほとんどの場合、表面だけが汚染されているポークチョップやステーキと異なり、ひき肉は菌に全体を汚染されており人体に感染する危険が高くなるので、完全に調理しなければならない。
同会議でオランダの研究チームが発表したもうひとつの研究によるbニ、同じ腸球菌でも鶏肉由来のものと比較するとブタ肉由来のものの方が人体に大きな影響があるという。研究はまた、家畜に対する抗生物質の使用をできるだけ抑えるよう奨めている。
世界中で家畜に与えられている抗生物質の約半分は成長促進と病気予防が目的だが、常に宰宰麹R生物質を投与していると善い菌と悪い菌のバランスが崩れ、動物の体内で耐性菌が作られ易くなる。
体内に耐性菌を保有する動物の肉を人間が食べると耐性菌が人体に感染する危険もある。この研究ではブタ肉から人体に感染した菌のほうが鶏肉から感染したものよりも長時間生生存するという結果が出ている。
CBC
News
食肉から人体に入り込む耐性菌
ALIVE海外ニュース 2002.3-4 翻訳:宮路
メリーランド大学と米食品医薬品局(FDA)の研究者が首都ワシントンDCの3つのスーパーから200の牛、ブタ、鶏、七面鳥のひき肉などをサンプルとして購入し調査を行ったところ、その5分の1(41)からサルモネラ菌が検出され、ほとんどの菌株は抗生物質に対して耐性があることがわかった。そして分離された菌株のうち84パーセントは少なくとも一種の薬剤に耐性を持ち、53パーセントは3種かそれ以上の薬剤に耐性があった。
また、4つのサンプルからはDT104という多剤耐性サルモネラ菌が検出された。メリーランド大学の微生物学者ジャンホン・メン博士は「非常に危惧している。というのは、この菌はすくなくとも5種の抗生物質に耐性を持ち、これまでにも食中毒の流行を引き起こしているからだ」と述べている。
サルモネラ菌は毎年アメリカで起こる140万件ほどの食中毒の原因となっており、この調査結果はFDAがこれまでに行ってきた食中毒を引き起こすバクテリアなどに関する調査内容とも一致するものであり、家畜に対する抗生物質の使用制限を強化すべきであることを示している。
人間や畜産動物への抗生物質の過剰投与は耐性バクテリアの増加を促進するが、畜産農家はもう何十年も畜産動物に抗生物質を与えてきた。動物用医薬品業界のロビー団体、米動物衛生研究所(AHI)は、抗生物質の年間使用量は2千万ポンドを超えるが、これはおもに病気の治療や予防のために使用されているという。しかし「関心を持つ科学者連合」(UCS)はこのうち病気の家畜に使用されているのは2百万ポンド程度で残りは主に病気の予防と成長促進用に使われているとみている。一方、人間に使用される抗生物質は年間3百万ポンド程度だ。
UCSの食品プログラム主任、生物学者のマーガレット・メロン博士は家畜に対する大量の抗生物質使用が耐性バクテリア拡大の原因だと非難し、動物への不必要な抗生物質投与を即刻止めるよう措置を講じなければならないといっている。
また疾病管理予防センター(CDC)の研究者チームが行った別の調査では、ジョージア、メリーランド、ミネソタ、オレゴンという4つの州の26のスーパーで購入した407の鶏のうち半分以上が切り札とされている抗生物質Synercidに耐性を持つ腸球菌E.faeciumに感染していた。(訳者注:Synercidは1999年9月、FDAが30年振りに認可した抗生物質で、FDAは当初、バクテリアがE.faecium
である事を確認した上でこの薬を使用するよう医師に強く勧めていた)Synercid は動物には使用されていないが、これと同タイプの抗生物質は1970年代から畜産動物に与えられていた。
また、人糞便サンプルの1パーセントから耐性菌が検出されたが、研究者はこの割合も将来は増えるだろうと予想しており、バージニアマイシンなどの薬剤の家畜への使用を制限すべきだろうといっている。
FDAの獣医学センター所長サンドルフ博士によれば、FDAはそのような薬剤の家畜への使用中止を検討中だという。
一方、AHIのスポークスマンは、抗生物質は動物の健康と畜産製品の安全を維持するものであり、業界と政府が協力してこの耐性菌問題に関する真の解決策を見つけようとしているが、抗生物質の即刻使用禁止が最善策だとは思えない、と述べている。
タフツ大学の感染症の専門家ゴーバック博士はこれらの調査についての論説で特に重要なのは人間用の薬剤の畜産動物への使用を禁止することで、また、他の抗生物質も病気の家畜に対してのみ使用し、成長促進や健康な家畜に予防のために投与すべきではないとしている。ヨーロッパ連合ではこのような薬剤の使用は禁止されている(訳者注:EUは家畜の成長促進剤としてのスピラマイシン、チロシン、バージニアマイシンなどの使用を1999年6月に禁止している)。
家畜への抗生物質の使用に反対する側は換気をよくする、畜舎などを清潔に保つ、また、他の管理方法などを改善すれば抗生物質の使用量を減らしても家畜の健康状態は向上するし、抗生物質の使用を禁止しても食肉の値段はわずかに上がるだけだろうといっている。
New England Journal of Medicine, AP, CNN