政府調査報告：工場より環境を汚染する中国の農場

画期的な政府調査、肥料や農薬が水質汚染の大きな原因であることを特定

ALIVE海外ニュース 2010.5-6　翻訳：宮路正子

　　中国での水質汚染の原因は、工場廃水より農場にあることを、中国政府が初の汚染調査で発表した。
　　政府高官によると、この調査には２年の月日が費やされ５７万人が関わった。その結果、環境方針を、工場の煙から鶏小屋、牛舎、果樹園対策へと一部再修正する必要があることが分かった。
　農村地域の汚染濃度上昇率がかなり上向きに修正されたにもかかわらず、政府は、地方の汚染問題は今が最悪、あるいはすでに最悪時は過ぎたのではないかという見解だが、環境保護団体がこれを容易に受け入れるとは考えがたい。

　消息筋によると、この画期的な報告の公表は農業省の抵抗によって遅れたという。農業省はこれまで、中国における農業は環境汚染にほんのわずかしか関わっていないと主張してきた。調査結果は、この主張を反証するものとなった。調査によれば、中国の化学的酸素要求量（海水や河川の有機汚濁物質等による汚れの度合いを示す数値）の４３．７％、リン汚染の６７％、窒素汚染の５７％が農業に起因する。

　調査公表にあたり、農業省のワン・ヤンリアンは、集約農業方式の副産物について認めた。肥料や農薬は、生産性向上のために重要な役割を果たすが、その不適切な使用で環境に深刻な影響を与えた地域もあるし、家畜飼養や水産養殖の急速な発展は大量の食物を生産したが、こちらも生活環境汚染の大きな原因となっている、とヤンリアンはいう。
　また、農業省は農薬・肥料使用の効率を上げる方法を導入し、動物の排泄物によるバイオガス生産を増やし、農業形態が環境を保護するものとなるよう変えていくという。

　農村の汚染数値が高いのは、中国の農業分野の規模が大きいことがその理由の一部ではあるが、この国が肥料などの人工的な農業資材に過度に依存していることも反映している。
　　中国は世界人口の２２％を養うために世界の土地面積の７％しか使用していないのだから、これは不可欠なものだと政府はいう。業界はより大量の化学薬品使用のためにロビー活動を行っており、そのひとつ、大手のエネルギー会社、中国海洋石油総公司（CNOOC）は、海南島に中国最大の窒素肥料工場を所有している。

　しかし、このような化学物質投入に対する見返りは割に合うものではない。グリーンピースが最近発表したデータによると、中国は世界の窒素肥料の３５％を使用しているが、これはエネルギーや他の資源を浪費し、水質汚染や温室効果ガス排出を増やしている。
　グリーンピースのキャンペーン・ディレクター、スツェ・パンチェウンは、「農業汚染は、中国で最も深刻な環境危機となりました。中国は肥料や農薬の過剰使用に対する戦いを強化し、人の健康、環境、持続可能な農業の開発に有利な環境保護型農業を促進する必要があります」という。

　中国人民大学農業農村開発大学院のウェン・ティエジュン学部長は、この調査を転機としてとらえるべきだという。ティエジュン学部長によれば、中国の農民は必要量の２倍の肥料を使っている。

　５千年近い中国の歴史で、農業は炭素を吸着する経済活動を提供してくれてきたが、この４０年のうちに、最も大きな汚染源のひとつとなった。これまでの経験からすれば、食料安全保障問題を解決するために化学農業に依存する必要はなく、政府は低汚染農業を取り入れる必要があるという。

　しかし、統計上の巧妙なごまかしのように思えるが、政府は調査による新しい農業データなどの数字は、汚染を１０％削減する５年計画の成功評価のためには使用しないという。 環境保護省副大臣ツァン・リジュンは、中国は発展途上で排出物を多く出す段階の他の国よりも迅速に汚染問題を解決しつつあると主張する。

　中国は成長のパターンが異なるので、汚染が最悪に達するのは、他の国では平均して一人当たりの国民所得が８，０００米ドル（約７２万円）に到達する頃だが、中国では３，０００米ドル（約２９万円）だという。
これが事実であれば、中国の汚染問題はすでにピークを過ぎている。世界銀行と国際通貨基金によれば、中国の一人当たりの国民所得はすでにその額を超えていて、為替レートを低い生活費を考慮に入れれば、中国の国民所得は６，０００ドル（約５４万円）以上に相当する。

　しかし、ツァンの主張には異論もあるだろう。いくつもの汚染醜聞が明らかになっているように、多くの国や地方行政は排出・排気量を少なく報告するのが通例となっている。 多くの有害な、あるいは物議をかもす汚染形態は、二酸化炭素排出や微粒子排出のように計測されないか、オゾンのようにデータが公にされない。 ツァンによれば、政府は次の５年計画で監視システムを拡大するという。

【中国初の汚染報告からの抜粋（２００７年）】

・二酸化硫黄排出量：２，３２０万トン（９１．３％は工業由来）

・酸化窒素排出量：１，８００万トン（３０％は車由来）

・ 化学的酸素要求量排出量：３０３億トン（４４％は農業由来）

・ 煤煙：１，１７０万トン

・ 固形廃棄物：３８億トン（うち４，５７０万トンは有害廃棄物）

・重金属排出量：９００トン

・ 農業動物排泄物（糞便）：２４，３００万トン

・農業動物排泄物（尿）：１６，３００万トン

・農作物用プラスティックフィルム：１２１，０００トン（８０．３％はリサイクルされる）

２０１０年２月９日
The Guardian
http://www.guardian.co.uk/environment/2010/feb/09/china-farms-pollution