【イギリス】
消費問題:安い牛乳をとるのか、家族経営農場をとるのか
ALIVE海外ニュース 2011.1-2 翻訳:宮路正子
ピーター・ワイルズは、イギリスに平均飼育数の30倍の動物を飼育する巨大酪農が必要な理由を、伝統的な酪農業者は倒産し、輸入牛乳が増加している、つまりイギリスの牛乳が危機にあるからだと説明する。
ワイルズがリンカンシャー、ノクトンに建設を計画している工場は“食糧安全保障”のためになり、“環境にもいい”のだという。飼料は地元で育て、ウシの糞尿は近隣の土地に撒くので、気候変動を引き起こす化学肥料の必要性を減少させるし、嫌気性消化装置がスラリー(ウシ糞尿)を8、300軒分のグリーン電力に変える。
高い動物福祉基準を設け、60人分の雇用を作り出すことになるのだ。
しかし村人はあまり歓迎していない。汚染や糞尿の悪臭、そして狭いいなか道をたくさんの連結トラックが行きかうのを恐れているのだ。
それに彼らは、3、770頭の乳牛が1頭あたり毎日58パイント(約33リットル)の牛乳を生産し、つらく、短い生涯をすごすのだという動物保護団体に共感しているところもある。
イギリスの酪農が長年危機にあるのは疑う余地がない。 年間、少なくとも500人の酪農家が廃業している。その数は、1995年の35、741人から昨年は16、404人と半分に減った。酪農家の平均年齢は59歳で、この産業は転機にある。今のままの状態が続くと、今より少ない数の小規模農場が、通りがかりの観光客が雨で繁茂した緑の野でゆったりと過ごす牝牛の姿を楽しむウエストカントリーに残るだけになる。
代わりに、巨大酪農が東部の平地にいくつもできるだろう。そこは土地も安く、人工飼料の原料となる作物が作られ、人口も密集している。ワイルズ氏と彼のビジネスパートナーである酪農家デヴィッド・バーンズがノクトン酪農の建設を計画しているところだ。
しかし、これらすべての責任は誰にあるのだろう。まず、スーパーマーケット、そしてつまるところ、一般市民だ。 食品の値段に詳しい人間はあまりいないが、バターや2リットル入りの牛乳の値段くらいなら誰でもわかる。スーパーマーケットはそのような“誰もが値段を知っている商品”を値下げして目玉商品にするのだ。その一方で、過去20年間、乳製品製造加工業者を搾り取ってきた。そし乳製品製造加工業者は同じように農場からの買取価格を低く抑えてきたのだ。その結果、苦労するのは農家だ。彼らはできるだけ生産量を上げようとする。だから、この10年で農家の数が半減したにもかかわらず、生産量は2000年の135億パイント(約77億リットル)から昨年の128億パイント(約73億リットル)と5パーセント減少しただけだ。
消費者の手に入るのは水っぽい工場式農業の牛乳だ。しかし、それは安い。1リットルのオレンジジュースは300円するのに、1リットルの牛乳はたったの100円。ビール550mlは460円するのに、同じ量の牛乳は60円だとコンパッション・イン・ワールド・ファーミング(CIWF)は指摘する。
では、巨大酪農は問題を解決するのだろうか。ここで、放牧されているウエストカントリーの乳牛の生活ですら楽ではないことを指摘しておこう。
自然な状態では20歳まで生きるウシもいるが、酪農場では通常、5年以内に死亡する。 ブリストル大学、動物福祉学のジョン・ウェブスター教授は乳牛の暮らしを毎日マラソンをする男性のそれになぞらえる。
政府は、農場動物福祉評議会(FAWC)の助言に言及し、大規模酪農場が必ずしも小規模農場より動物にとって悪いというわけではないというが、英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)、CIWF、世界動物保護協会(WSPA)などが憂慮する点を考えると、これについてはあまり納得できない。
欧州食品安全局(EFSA)は昨年の報告書によると、乳量の多いホルスタイン種と乳腺炎の発症率の高さには関連性があるという。巨大酪農を有する米国では、4歳まで生きる牝牛の割合は1957年の80パーセントから2002年には60パーセントに下がっている。
農場から直接、牛乳を購入できる人はほとんどいないが、そうしている人は農家を助けていることになる。また有機の牛乳を生産しているのは小規模な伝統的農場だ。
安い工場式農業生産の牛乳を選ぶのか、それとも牝牛に優しく、美味しく、高価な牛乳を選ぶのか。イギリスの酪農の未来を決めるのは私たちだ。
2010年11月20日
The Independent
http://www.independent.co.uk/money/spend-save/consuming-issues-do-we-want-cheap-milk-or-family-farms-2138921.html
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