ドイツ連邦議会、動物の権利に投票
ALIVE海外ニュース 2002.7-8 翻訳：宮路
ドイツはＥＵで初めて、憲法によって動物の権利を保障する国となった。ドイツ連邦議会下院では543名の議員が動物に憲法上の権利を認める修正案を支持。反対は１9名、棄権は１5名だった。これを受けて夏には上院でも同修正案が承認される見込みだ。
ドイツ連邦共和国基本法（ドイツ憲法）第20a条 、「自然資源の保護」はこれにより以下のように変わる。「国は、将来の世代に対する責任からも憲法的秩序の枠内で、立法により、並びに法律及び法に基づく執行権及び司法により、生活の自然基盤と動物を保護する」（“．．．と動物”が今回加えられた部分）
この修正案については過去10年間ドイツの政治家の間で激しい議論が続けられていた。
ドイツの動物は飼養状況などを定める法律ですでに保護されているが、動物保護活動家は既存法では動物の実験使用を管理するのに不十分であると主張してきた。この修正により、連邦憲法裁判所はすでに憲法で保証されている研究を行なう権利や宗教的行為を行なう権利といった他の既存権と、動物の権利を比較検討しなければならなくなり、これまで以上に厳しい制限が化粧品や一般用医薬品開発用実験の動物使用に課される可能性がある。
キュナスト消費大臣は環境保護に力を入れる「緑の党」党員であり、この党は何年もの間、動物の権利を憲法に盛り込もうとキャンペーンを行なってきた。大臣は今回の修正案可決を画期的であると歓迎しているが、これによって人権が損なわれるわけではないことを強調している。
連邦議会の保守派議員達は、動物の利害が人間のそれより優先される可能性があり、特にドイツの研究産業にダメージを与えるとして、これまで憲法修正案に反対してきた。
一方、動物保護活動家は今回の憲法修正を利用して動物の長時間輸送禁止を目指すといっている。また、立法者は、ドイツ政府が、動物実験の代替法研究に対する助成金を増やすことについても検討する、といっている。
ドイツ憲法に動物保護規定
ハラル判決に対する怒りがドイツの動物実験を窮地に ドイツでは憲法が修正される見通しで、これにより動物の実験使用にこれまでより厳しい規制が加えられる可能性がある。
憲法修正に対する反対勢力の主導的立場にあった政党がその立場を変えたために、今年、動物を人間と同様の生き物として扱い、避けられる苦痛から保護されるよう憲法が修正されることになりそうだ。
与党、社会民主党および緑の党はこの修正を数年来支持してきたが、キリスト教民主同盟の反対により、修正に必要な連邦議会における３分の２以上の票を集められないでいた。
しかし、今、キリスト教民主同盟の幹部らは修正支持を表明している。党首アンゲラ・メルケルは、この方針変更はドイツ最高裁がハラルによる屠殺に関して下した判決によるものだという。最高裁は今年１月、イスラム教徒はユダヤ教徒同様、その宗教に則り、ハラルと呼ばれる、屠殺前に動物を失神させない方法で屠殺することができるという判決を下した。
この判決はドイツ国民のひんしゅくを買い、動物保護団体の憲法修正キャンペーンに拍車をかける結果となった。しかし、科学者は修正に伴い、憲法で認められている自分達の実験を行なう権利が阻害されるのではないかと恐れている。
ドイツの現行の動物保護法はすでに世界でも有数の厳格なものであり、科学団体はこれまでさらなる規制の施行を阻止することに成功していた。（Nature 297,461;1999参照）
科学団体はキリスト教民主同盟が修正支持に回ったことを非難している。「憲法が修正されると基礎実験や産業関連の実験に多大な支障をきたす。実験を行なう自由と動物の権利を秤にかけなければいけなくなると、動物実験に関する果てしない法的議論を招き、官僚主義的な妨害を増長させることになる」と、ドイツにおける生物医学実験界の主要ロビー団体、衛生実験協会のスポークスマンは述べている。
動物保護団体は憲法が改正されれば強力な法的武器になると期待している。「我々はドイツにおける動物実験の数を減らすためにできる限りのことをする。憲法で保証されている研究の自由は動物の実験使用を法的に正当化するためには充分ではなくなるだろう」と動物実験に反対する団体の代表ヴォルフギャング・アペルは予測している。
ブレーメン大学の神経学者アンドレアス・クライターは霊長類の脳における電気シグナルの実験にマカク類を使用しており、言葉による攻撃だけでなく実際に活動家に襲われたこともある。(Nature 396, 505; 1998 参照) クライターは憲法の修正により自分の研究がさらに脅かされるといっている。
しかし、研究者らは１０月の選挙までに憲法修正案がどのような形でか可決されるのはほぼ確実と観念しているようだ。「ハラルに対する判決が国民の感情を刺激したおかげで憲法修正は避けられないようようだ」とマックス・プランク生体制御研究所所長クノ・カーシュフェルドはみている。「このような事態になったのはまことに残念だが、修正案の表現を和らげるようキャンペーンすることくらいしかできないようだ」
Nature 416,355 (2002)
（３月２８日付けネイチャー誌から。この後、５月１７日に憲法修正案は連邦議会下院を通過。夏には上院でも可決される見通し）
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