【アメリカ】
マーク・トウェインは、アメリカで最初の動物福祉の擁護者か
ALIVE海外ニュース 2010.3-4 翻訳:宮路
スタンフォード大教授で、有名なマーク・トウェイン研究者でもある、シェリー・フィッシャー・フィシュキンの最新の研究は、マーク・トウェインが動物虐待問題への関心を喚起した最初の著名なアメリカ人のひとりであったことを示唆している。
今日、アメリカで動物の福祉や権利のために尽力する団体がどれほど普及し、影響力を持っているかを考えると、動物の擁護運動が、19世紀半ばまで、さほど活発ではなかったと聞くと意外に思うかもしれない。
その後の活動家の努力により、今では、動物の福祉と権利は、立法者にとっても一般市民にとっても重要な問題となっている。
しかし、動物の擁護運動は、アメリカの最も偉大な作家のひとりの支援がなければ、決してここまでたどり着かなかったかもしれない。その作家とはマーク・トウェインだ。
「マーク・トウェインの動物の本」と題されたフィシュキンの新著で、このスタンフォード大の文学教授は、トウェインが動物に関心を持ち、擁護する姿勢が、どのようにその作品の多くに現れているかを分析し、序文とあとがきでは、その作品が、動物虐待や人間による人間以外の動物の搾取に対するアメリカ人の関心を高めるために極めて重要な役割を果たしたのではないか、と書いている。
「マーク・トウェインの動物の本」は、トウェインの動物に関するさまざまな作品を集めたもので、短編や随筆から、小説からの抜粋、旅行記、私信の抜粋にまで及んでいる。この中にはトウェインが動物実験に反対して書いた有名な意見書も含まれているが、これは後に一種のマニフェスト(宣言書)として世界中の動物実験反対者が引用した。この本はカリフォルニア大学出版からこの秋出版され、6つの未発表の作品も含まれている。
「動物の解放」や”The Life You Can Save” (未邦訳:あなたが救うことができる命)の著者、哲学者ピーター・シンガーは、「私も、この本を読むまで知らなかったが、マーク・トウェインが、アメリカでは初期の動物擁護者のひとりであったことを知らない人にとって、フィシュキンがまとめたトウェインの動物に関する著作集は新しい発見となるでしょう。ここにある著作の多くは、書かれた当時同様に新鮮で活き活きとしています」と書いている。
学者、熱情的な、怒れるトウェインを発見
フィシュキンは、「マーク・トウェインの動物の本」のための研究は、トウェインの作品のこれまで研究されていなかった局面を調べたものなので、特にやりがいがあったという。
フィシュキンは、「この著作集で、読者は最も愚かで、哲学的で、感傷的で、冷笑的なトウェインを見ることができます。そして、トウェインが楽しんでいる姿、怒り狂っている姿を見ることができます。陽気な話もあるし、暗い話もあります。心に訴えかけるような話もあるし、率直に言えばとても不快な話もあります。子供、子を持つ親、芸術家、思想家、そして活動家としてのトウェインを垣間見ることができます。つまり、トウェイン自身と同様に、複雑で多彩な書物なのです」、という。
トウェインの作品に登場する動物は、ネコ、イヌ、ウマ、トリといったなじみ深い動物から、カモノハシ、ワライカワセミ、ツェツェバエなどの珍しい動物にまで及ぶ。
トリもたくさんの場面に登場するが、どうやらトウェインのお気に入りはネコだったようだ。 トウェインは、ネコが独立しているところと、人間が振り下ろすムチをかわすことのできる唯一の動物だというところを賞賛している。
作品に精彩を与える有名なアメリカ人芸術家によるイラスト
また、著作集には、20世紀の有名なイラストレーター、バリー・モーザーによる動物の版画が30作以上使われている。
「モーザーは生存する版画家・イラストレーターの中でも一流です。素晴らしい作品を仕上げてくれました。彼が描いた動物は実に見事です」と、フィシュキンはいう。モーザーの作品は、「白鯨」、「不思議の国のアリス」、「聖書」などにも使われている。
トウェインの動物哲学形成に中心的役割を果たしたダーウィン
フィシュキンがこのプロジェクトに着手するきっかけは、トウェインの作品で、動物がどれほど中心的役割を果たしているか、そして、トウェインの動物のとらえ方が、彼の人間のとらえ方をよく表していることに気づいたことだ。
フィシュキンは研究の過程で自分の見つけたものに驚いた。 「このプロジェクトを始めたときには、トウェインが当時、動物福祉運動を後押しする最も著名なアメリカ人であるとは知りませんでした」
マーク・トウェインはチャールズ・ダーウィンが、「人間の由来」という革新的な本で述べた考え方に大きな影響を受けた。「人間の由来」は、トウェインが言っているように、“世間を驚かした”本だ。フィシュキンは、トウェインが所有していた本(“マーク・トウェイン関連書類”と共にバンクロフト図書館の保管されている)の余白に書いたたくさんのメモを調べ、その意味を分析した。
そして、トウェインが、人と動物は、実際のところ、人がそうであってほしいと思っているよりはるかに似通っているというダーウィンの考えに影響を受けていたことが分かった。
「ダーウィンは、人間と動物の間の感情的、そして知能的な連続性という問題に取り組んでいました。彼は、下等動物も人間と同様の感情を経験し、初歩的な理論付けをする能力があると書いています」、とフィシュキンはいう。
ダーウィンの観察は、トウェインの作品の中でもいくつかの文章に示されているように、彼自身のそれとも重なる。トウェインの作品は、動物は話すことができなくても、考えることも、意志の疎通を図ることもできるとトウェインが信じていたことを示している。
トウェインは、しかし、創造の頂点に人間を置くことを拒否した。それどころか、人間を「最も下等な動物」と分類している。
「人間は赤面する動物だ。赤面するのは人間だけだ。赤面するようなことをするのは人間だけだからだ」、と言ったことがある。
トウェインは、ときに奇抜さ、風刺、毒舌を組み合わせて、人間を批判する道具としてよく動物を使った。たとえば、この著作集で初めて出版される“「あるイヌから別のイヌへの手紙、人間についての説明と解説」、ニューファンドランド犬スミス著、犬語からの訳M.T.(マーク・トウェインのイニシャル)”などがいい例だ。
スポーツとしての狩猟と闘鶏に憤怒するトウェイン
トウェインは動物虐待に関して、例えば、スポーツや娯楽のための動物の搾取に関わる無神経さについて、いろいろな作品の中で批判している。トウェインは、スポーツと“称される”
闘鶏の野蛮さに注意を向けさせようとした最初のアメリカ人だったかもしれない。彼は闘鶏について生々しい記述をしている。
また、いくつかの作品にスポーツとしての狩猟を軽蔑するトウェインの気持ちが表れている。「ハックルベリー・フィンの冒険」の続編には、ハックが鳥を撃ち、すぐさま後悔し、恥じるという印象的な箇所がある(「ハック、鳥を撃つ」)。
著作集の中の別の作品、未発表の自叙伝的作品は、この話がトウェイン自身の子供時代の体験に基づいているものであることが明らかにしている(「暗殺者」)。
トウェインは、バッファロー狩りにおけるイギリス人伯爵の振舞いを印象的に描いた話 (「動物界における人間の居場所」)や、熱烈な反闘牛の短編(「ある馬の物語」)なども書いている。
また、アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)が設立された翌年、協会の創設者、ヘンリー・バーグについても描写している。バーグが劇場の支配人に劇で使われている生きた動物の扱い方に抗議するところを目撃し、詳述したものだ(「動物虐待」)。
トウェインは、さまざまな作品の中で人間による動物の扱い方を非難しているが、特に彼の怒りをかき立てたのは動物実験だった。ロンドン動物実験反対協会へ宛てたトウェインの手紙は、「これまでに動物実験について書かれた最も強力な声明のひとつ」であり、この手紙からの引用文は、今日でも、いくつもの動物の権利サイトに掲載されている。
生きた動物を使う実験に対する規制がたとえあったとしても、現在と比べればわずかであった時代に、あちこちに転載されたマーク・トウェインの動物実験批判には影響力があった。1907年、ある著名な動物実験反対活動家はトウェインへの手紙に、「他の人間の懸命な訴えが世間の耳には届かないまま無視されていますが、あなたの言葉は耳を傾けてもらうことができます」、と書き、「世界の考えを形成するトウェインの力」への感謝を述べた。
人間に失望: 時代に先駆けていたトウェイン
トウェインは年を経ていくにつれ、いろいろな理由で、自分の同胞である人間にますます失望するようになっていった。「動物の扱いも、貪欲、強欲、偽善、傲慢、高慢など、人間の他の欠点と共に失望の原因でした」と、フィシュキンは述べる。
トウェインの作品が元で始まった議論の中には、未だに熱く論じられているものもあるとフィシュキンは言う。 マーク・トウェインの言葉は、「私たちが考え、思い込みに対して疑問を持ち、そして、同じ人間に対しても、この惑星を共有する他の動物に対しても、思いやりを持つことを促しているのです」。
2009年10月23日
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