【中国】
中国の動物実験代替法
ALIVE海外ニュース 2011.10 翻訳:宮路
「動物実験代替法の適用において中国が先頭に立つ可能性もあります」と、メルビン・アンダーセンはいう。アンダーセンは米国ノースカロライナ州のハムナー健康科学研究所の毒物学教授で、3月14日、ユニリーバが上海で主催した会議で講演を行った。
この会議の直前に、中国の科学技術庁は、中国武漢で動物実験について注目を集めたセミナーを主催し、実験動物用の施設の改善を求めた。また、北京、昆明、広州では、動物実験センターが新たに建設された。
「毒性試験で動物実験を代替法に置き換えるのは世界的傾向になっていますが、中国では、政策立案者はまだ代替法に十分な注意を向けていません」と中国軍事医療科学アカデミーの疾病管理予防研究所にある毒物学評価研究センターのペング・シュアンギング所長はいう。
新薬や化学物質の安全性試験に動物を使用するのは、長い間、典型的な研究パラダイムだったが、動物福祉問題が西欧諸国でより重要視されるようになり、中国が実験動物市場でより大きなシェアを占めるようになった。「しかし、私たちは代替法を開発する必要があります。化粧品や化学物質の毒性試験の中には、欧州委員会が、間もなく、動物実験によるデータを受け付けなくなるものもあるでしょう」と広東検験検疫センターのリサーチフェロー、チェン・シュンジュンは警告する。
ユニリーバの安全と環境保証センターのジュリア・フェンテン副社長は、動物実験から遠ざかる傾向は、主に科学の進歩と将来の研究における優先順位の結果だと考えている。「化学物質がヒトの生物学とどのように相互作用するかをより理解する必要があります」とフェンテンはいう。アンダーセンの同僚、ツァン・キアングも「動物は人間とは異なる生き物です。動物実験で使用された投与量から得られる安全な服用量を信頼できると思いますか」、とフェンテンに同意している。
法律の改定により、化粧品業界は、動物実験を放棄する最初の分野になる可能性もある。というのも、製薬、農薬、化学の分野全般においては、動物実験代替法への移行について、まだはっきりした予定表は存在しないからだとフェンテンはいう。毒性試験のコストを下げ、かかる時間を短縮し、スループットを上げるのも、代替法への移行を考慮するもうひとつの理由だ。欧州連合は2007年にREACH(化学物質の登録、評価、認可、および制限)法を採用し、数多くの化学物質を早急に登録しなければならなくなった。動物がいくつもの化学物質の毒性試験のために使用されなければならないとすれば、膨大な資源、時間、お金が費やされることになると、フェンテンはいう。ヨーロッパでは、1000万匹以上の動物が実験に使用され、そのうち10パーセントは化学薬品の安全性試験に使用されている。2007年以降、REACHの施行により、化学薬品の安全性試験に使用される動物の数はかなり増加している。
中国にとっては好機
チェンによると、REACHには動物試験削減に向け特に定められた規制があるが、中国のほとんどの化学薬品会社はそれに影響を受けない。しかし、化粧品原料として使用される輸出用化学薬品については、中国の化学薬品メーカーはヨーロッパの法規制に対処するため、より多くの代替法を使用している。「これは400億ユアン(約4800億円)の価値がある市場です」とチェンは本紙記者に語った。そのほとんどは科学機器や手順を研究するプロジェクトの一部ではあるものの、中国ではすでに動物実験代替法開発のための予算があるという。
動物実験代替法について研究することで、中国における既存の研究パラダイムが見直される可能性もあるとペングはいう。ペングの研究チームは毒性研究のための非動物アプローチについて研究している。ゲノム、プロテオミクス、代謝学、生命情報工学、計算論的・数学的アプローチの急速な発展により、科学者は、より正確に人の健康や環境に対する化学物質の潜在的な脅威を分析することができるようになった。そのおかげで、これまでに、多くの化粧品原料の潜在的危険性を特定することに成功し、いくつかの動物実験の置き換えに直接結びついた。
むずかしい課題
非動物毒性試験によるこれまでの成果は、主に化学薬品の危険性を特定し、分類あるいは標識化する方法に基づいているとフェンテンは説明する。これについてフェンテンは、反復投与毒性、発がん性、生殖毒性、トキシコキネティクスの分野では、動物実験の完全な置き換えの予定について全く見通しが立たないと結論を下した化粧品テストのための非動物方法に関する2010年の欧州委員会専門家報告を引用した。2017年から2019年の間に、臨床で動物実験の完全な置き換えが科学的に可能であるかもしれない唯一のものは皮膚感作(アレルギー)で、これについてはいくつかの非動物実験方法が開発中である。
非動物実験を取り入れるための問題は中国の規制制度だとチェンは強調する。輸出用の化粧品原材料の場合、中国のメーカーは2種類の実験を行わなくてはならない。欧州市場用の非動物実験と、非動物実験によるデータを受け入れない中国の化粧品業界の見張り番役、中国国立食品医薬品局(SFDA)用の従来型の動物実験だ。チェンはこれがメーカーにとってコストの上昇の原因となっているが、国際市場の要求を感じている業界からの圧力によって、SFDAのような監視機関も、いずれは、非動物実験という新しい基準に順応せざるを得ないだろうという。
2011年5月4日
Royal Society of Chemistry
http://www.rsc.org/chemistryworld/News/2011/May/04051102.asp
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