野生動物たちの苦難
ALIVE海外ニュース 2002.1-2 翻訳:宮路
クリスマスプレゼントには不向きなフクロウ
世界的ベストセラーになった「ハリー・ポッターと賢者の石」が映画化されたが、イギリスなどでは野生生物専門家たちがこの映画のファンがクリスマスプレゼント用にフクロウを購入するのではないかと危惧している。すでに動物取扱業者などにかなりの問い合わせが来ているという。映画に出てくるシロフクロウは北極圏に生息する希少な鳥で繁殖がむずかしくかなり高価だが、メンフクロウはそれほど高額でないため購入しやすい。専門家はフクロウは規則的な運動と入念な世話が必要で食事も小型哺乳動物などを内臓や骨なども含め丸ごと与えなければならず、また、特に頭がいいわけでも、人になつき易いわけでもないのでペットにするには不向きな動物、と忠告し、映画の影響で買われたフクロウの中にはクリスマス時期が過ぎると捨てられるものも出てくるのではないかと心配している。
ブラジルの森林から「盗まれる」野生生物
野生動物の違法取引に反対するブラジル全国ネットワーク(RENCTAS)がこのほどブラジルにおける動物の違法取引に関する一部始終を詳細なレポートにまとめた。このようなレポートは同国では初めてのものだが、これによるとブラジルの森林から「盗まれる」野生生物の数は年間3800万にものぼり、また、国内の希少動物密売業者は年間10億ドルもの収益をあげ、ブラジルの野生生物生息地に計り知れない損失をもたらしているという。
ブラジルは世界でも最多種の動植物を有し、アマゾンを除けば最大の熱帯雨林があり、広大なパンタナル湿地には無数の動植物が生息する。レポートによれば、動物の違法取引は違法武器、麻薬取引の次に大きな国際的犯罪行為で年間の売り上げは世界中で200億ドルにものぼる。
レポートには希少なオウムから毒蛇にいたるまで生きた「貨物」用密売ルートなどの詳細を記した地図も含まれる。このように取引される動物のうち警察が押収するのは全体の0.45%にすぎないという。
国内市場と海外市場があり、海外市場用に取引されるのは主に希少動物だ。コスミレコンゴウインコは6万ドル、猛毒を持つ蛇ジャララカは2万ドル程度で取引される。またアメリカではジャガーの皮に2万ドルの値がつくという。
オウムやインコはどのような種であれブラジル各地のマーケットで手に入れることができるが、これらも大抵は生息地で違法に捕獲されたものだ。地元で売られる鳥は5ドルから100ドル程度の値がつくが、海外に密輸される希少種はもっと高い金額で売られる。
このレポートはブラジル政府にも送られた。政府は現在、道端のマーケットなどで動物を買わないようにという呼びかけをミナス・ジェライス州で行っているが、これを国内の他の地域にも拡大するという。フィルホ環境大臣はこのレポートが野生動物の違法取引という環境犯罪を摘発する有効な武器になると述べている。
政府の声明によれば売買される前に警察に押収される密輸動物の数が1998年の23100頭から2000年には61182頭と増えており、これは警察が問題の撲滅に取り組んでいる表れだという。
しかし、動物密売業者は麻薬取引などにも関わっている場合が多く、これは彼らが犯罪初心者ではないということを示しているとレポートは警告する。中には国境を通過する際、麻薬密輸の目隠し用に動物を使う業者もいて、輸出された生きたボアコンストリクターの体内に隠されたコカインが発見されたこともある。ブラジルで動物の違法取引に関係があるとされる400ほどの業者のうち、40%ほどが他の違法行為に関わっているという。
ENN
追いつめられるアフリカライオン
ライオンはかつて世界中に生息していた。しかし2千年ほど前にヨーロッパから姿を消し、150年前に北アフリカと南西アジアのほとんどの地域からもいなくなった。アフリカ大陸全域でこの種が絶滅の惧れがあるとはみなされていないが、中央・西部では、個々の地域個体群が生息維持のためには小さすぎ、それぞれが分断されているので、あと数十年でいなくなる可能性があるというレポートがまとめられた。
このレポートによると、ライオンの生息密度が最も高いのはカメルーンと、セネガル、マリ、ギニアの国境沿いの2ヶ所で、それぞれ200頭ほどいるが、他の地域個体群には50頭ほどしかいないところもある。しかし、近親交配で血が濃くなるのを防ぎ、生息を維持するためには少なくとも100の繁殖ペア、または500〜1000の個体数が必要だといわれている。
オランダ、ライデン大学のハンス・バウワー博士は、ランオンは今世紀中に絶滅はしないものの、10ヶ所あまりの国立公園内にしか残らなくなるだろう、と述べている。1996年に出されたアフリカ全土におけるライオンの推定生息数は3万〜10万頭だが、カメルーンで何年も調査をおこなっている博士は実際には1万から3万頭という数字のほうが近いだろう、セネガルからチャドにかけての中央・西アフリカには全体でももう2000頭ほどしか残っておらず、これらの地域個体群が何十年も生存できる可能性はない、と述べている。バウワー博士は中央・西アフリカにおけるライオンの生息数減少について検討するために、6月に国際自然保護連合(WCS/IUCN)の後援によりカメルーンで開かれた会議におけるライオンの専門家で編成されるアフリカライオン・ワーキング・グループのメンバー。
このグループがまとめた130ページのレポートによれば、農業や家畜の飼育用用地が拡大し続けているので、ライオンの生息地域はどんどん狭まっている。ライオンのオスは1頭当たり、捕食活動のために20〜200平方kmの広さを必要とするといわれるが、このような広さの手付かずの土地は急速に消滅しつつある。バウワー博士は「中央・西アフリカにおけるライオンの状況が把握できたし、このような状況が起こっている主な原因もわかったが、事態は深刻だ」と述べている。
レポートは中央・西アフリカにおけるライオンの生息数のデータベース作りが必要だとし、また、グループはライオン管理ハンドブックの製作と中央・西アフリカにおけるライオンのモニタリングを計画している。
New
Scientist, BBC, ロイター
世界動物保護協会(WSPA)は昨年、エチオピアでアフリカジャコウネコ飼育場の調査を行った。アフリカジャコウネコは麝香(じゃこう)採取のために野生から捕獲されるが、これは香水の原料として世界中の香水メーカーに輸出されている。
アフリカジャコウネコは顔や体格がきつねと似ており、その分泌物は独特の香りを持つ。かつては熱帯アフリカ各地で見られたが今はエチオピア北部にわずかに生息するのみとなった。
アフリカジャコウネコ飼育場については四半世紀も前に憂慮の声があがったが、現地で調査が行われたのは今回が初めてだ。WSPAのアフリカ担当マネージャーは、この25年の間に、コスメティック製品に関連しての動物、動物性原料の使用に対する一般市民の意識は急速に変化し、消費者は製品の製造過程を知る権利があるようと思うようになり、知ることによって製品を買うか買わないか倫理的な判断ができるようになったという。
麝香採取のために野生から捕獲されたアフリカジャコウネコは、福祉への配慮などまったくない状態で残りの一生を飼育下に置かれる。木の枝などでできた粗末なケージは、捕らえられた直後のアフリカジャコウネコが体をまるめた状態でいなければならないこともあるほど小さく、その後体重が減るまでは中で身動きをすることもできない。アフリカジャコウネコは夜行性なのでケージは暗い室内に置かれ、高温が麝香の分泌を促進すると思われているため常にいぶり火を絶やさないうえ、換気がよくないので室内はいつも煙っている。
食事は夜、トウモロコシや肉が与えられ、また麝香を採取したあとはバター、卵、肉などが与えられる。食べこぼした食物にハエがたかり給餌器の中やまわりにはよく蛆虫がついてる。特に危険なのは軍隊アリで、この集団がケージに侵入するとどこにも逃げ場のないアフリカジャコウネコは耳や鼻の穴をふさがれ窒息することもある。
法的にはアフリカジャコウネコを捕獲するには許可が必要だが、実際にはだれも申請すらしない。また、飼育場に関しては法規制がないため、行政には立ち入り調査権がない。
麝香採取は9日から15日に1度行われる。アフリカジャコウネコは棒で首を押え込まれ動けないようにされ、尾の付け根にある会陰腺から分泌物を絞り取られる。この作業はアフリカジャコウネコにとっては非常なストレスとなる。この際けがをすることも珍しくないが、手当されることはない。
香水業界はもとから秘密主義な体質であり、動物虐待の責任を問われるのではないかという不安もあり、どの香水メーカーが天然の麝香を原料として使用しているのか探し出すのはむずかしい。1985年から96年にかけて約13、678kgもの麝香がエチオピアから輸出された。これは30mlの香水ビン1億1800万本あまりを製造できる量で、金額に換算すると63億9100万ドルにものぼる。すでに多くの香水メーカーが合成原料に切り替えているが、これも動物実験によって開発されたものがあり手放しでは評価できない。WSPAは香水業界に原料として天然の麝香を使用しないよう、また合成原料の開発のために動物実験を行わないよう呼びかけている。
WSPA
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