カリフォルニア大学デイビス校の研究者は、1998年から2001年のあいだにカリフォルニア州で死亡した成体のラッコの数が異常に高いこと、またこれが、特定の地理的クラスター内で新たに認識された疾病によるものであることを発見した。これらはすべてラッコの生息する沿岸海域の環境が大幅に変化し、彼らが生存の危機に面している可能性を示唆する。
1995年以来急激に減少し、現在2千頭ほどしかいない個体数のうち、今年に入って100頭もの南ラッコの死体がカリフォルニアの海岸に打ち上げられているという報告の直後なだけに、この分析結果は非常に憂慮される。
分析はデイビス校とカリフォルニア州魚類野生生物局とが共同で行ったもので、今年死亡した100頭はデータに含まれていないが、この報告も原因解明の手がかりになるとしている。
疾病によるラッコの死亡率が高くなっているというのは、生態系が非常に不健全な状態にあるということだとデイビス校の研究者はいう。
データはカリフォルニアにおけるもっとも重要なラッコの死亡原因を解明し、最もラッコの生息が危険に晒されている箇所を判断し、また、1998年2月から2001年6月にかけてカリフォルニアの海岸で発見された105の死体についてのデータを分析している。
●分析結果
健康な個体群では、死亡するのは主に幼体、あるいは老体の個体だが、調査対象となった死亡個体の47パーセントは4歳から9歳だった。この年齢は個体が最も健康であるべき時期で、このような最も繁殖可能な年齢の個体は個体群維持のために不可欠であり、この年齢の個体死亡数が多いと減少した個体数の回復がむずかしくなる。
64パーセント、つまり3分の2は何らかの疾病により死亡している。そのうち38パーセントは 鉤頭虫や原虫類(トキソプラズマ原虫、住肉胞子属の原虫など)を含む寄生虫感染によるものである。また、新たに心臓疾病も死亡の一因となっていることが明らかになっている。
また、トキソプラズマに感染した個体はそうでない個体に比べるとサメの犠牲になる確率が4倍になるという。これは、ラッコの脳に寄生虫が入り込むことにより、神経障害を引き起こすためであり、ラッコは錯乱し、サメを避ける能力が低下し、危険な海域に泳いでいく可能性がある。また、身体を揺り動かすなどの症状がでるが、これによりサメの注意を引く危険性も増すという。
今回の研究では2つの場所が疾病の地理的クラスターとして確認された。ひとつはモロ湾で、ここでは発見されたラッコの半数はトキソプラズマの脳感染によって死亡しており、もうひとつはモントレー湾南部で、ここで発見された6頭のラッコのうち5頭は鉤頭虫の感染で死亡していた。この2つの原因によるラッコの死亡は海岸沿いに均等に起こっているのではなく、前述の2箇所に集中しているという。