ラッコを殺す有毒藻類

ALIVE海外ニュース 2010.11-12　翻訳：宮路正子

藍藻とも呼ばれるシアノバクテリアの一種が作り出す毒素が、カリフォルニア沖に生息するラッコの個体群に壊滅的な被害を与えている。

カリフォルニア州魚類鳥獣保護局（DFG）とカリフォルニア大学(UC)サンタクルツ校が科学誌PLoS ONEに発表した論文によると、研究者は２１頭以上のラッコの死を海に流れ込む藻から発生する有毒化学物質と結びつけた。

藍藻は光が深海に到達するのを妨害し、水中酸素の欠乏を引き起こす原因となることもあり、自然生態系に有害となりうる存在だ。水中から酸素がなくなると、どんな海中生物も生存することはできず、そこは酸欠海域（デッドゾーン）となる。また、研究者によると、ミクロキスティスという藍藻は猛毒も放出するという。

ミクロキスティスの発育に理想的なのは暖かく、富栄養化の進んだ淡水域だ。この有毒藻類は、ぬるぬるした緑色の軟泥のようで、水面を厚い緑色のマットのように覆う。淡水はやがて海に流れ込み、いっしょに藻も流入する。しかし、塩水に到達してもすぐには死滅せず、ときには３週間以上も特に大きなダメージを受けることなく生存することもある。

ミクロキスティスは、ラッコで見られたように、急性肝不全を引き起こし、生体組織を破壊し、命を奪うこともある。論文の主執筆者でDFGの上級野生生物獣医師メリッサ・ミラーは、２００７年にモンタレー湾沿岸で死亡したラッコを回収し始めた。これがきっかけとなり、毒がどこから来るのか、より広範囲におよぶ調査が始められた。調査の末、科学者はワトソンヴィルのピント湖にたどり着いた。この湖では以前にミクロキスティスが確認されたことがあった。ピント湖の水はコラリトス川を経てパジャロ川に流れ込む。パジャロ川はモンタレー湾に流れ込む３本の大きな河川のひとつだ。

海洋では、ミクロキスティスはカキ、イガイ、ハマグリ、カニなどに食べられるか吸収され、これらの生物をラッコが食料とする。この有毒バクテリアによる死が、カリフォルニアラッコ人口の全般的な減少の原因だったのだ。論文の共著者であるティム・ティンカーによると、これらの調査結果は沿岸海域への脅威を見つけ、認識する手段としてラッコのような指標種を綿密にモニターする意味を示しているという。

人間もまた、河口付近で、特に大雨の最中や直後に捕獲された貝を食べることによって、ミクロキスティスの中毒を起こす危険があるが、市販されている貝は、汚染されている可能性が低い地域で獲られている。また、ピント湖のような汚染された水域の水を飲んだり、あるいは毛がその水で濡れて、その毛を舐めたりすることでペットが中毒を起こす危険もある。

もうひとつの問題は、毒素汚染に関する連邦法も州法もないということだ。低レベルの汚染でも肝臓ガンを誘発する可能性があるが、ミクロキスティスを発見するための監視システムはアメリカでも他の国でもまったく存在していない。

論文の執筆者は、研究を継続し、藻の異常発生を制御する、あるいは防ぐ方法についての提案を行うために米環境保護局から助成金を受けた。

Link to published article in PLoS ONE:
PLoS ONEに掲載された論文へのリンク：
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0012576

２０１０年９月１３日
ENN
http://www.enn.com/wildlife/article/41767