【アメリカ】
種が多いほど、病気は少ない
人間との接触を減らし、生物多様性を保全することで、病原体の拡散を制限できる
ALIVE海外ニュース 2011.3-4 翻訳:宮路正子
生物多様性は生態系を感染症から保護する、という論文が発表された。この論文によると、環境からの種の損失には感染症の発生と伝播という危険な結果を招く可能性があり、人間に影響する場合もあるという。
ニューヨーク州アナデールにあるバード大学の生物学者、フェリシア・キージングは、他の研究者と共同で過去5年間に発表された数十に及ぶ研究をレビューし、さまざまな生態系、病原体、その宿主の間には確実なつながりがあることを見つけた。「生物多様性の損失が感染症の伝播を増加させることを示すパターンが表れています」、とキージングはいう。この論文はNature誌に発表された(1)。
生物多様性の損失がなぜこのような影響を与えるのかは解明されていない。しかし、多様性が減少するときには、感染症伝播を緩衝する種−例えば、繁殖率が低い、あるいは非常に高い免疫力を持っているなどの理由で−から絶滅し、繁殖率が高い、あるいは免疫力が低く、感染症の宿主になる可能性がより高い種は、より長く生存する。
レビューでは、西ナイル熱やライム病など、世界中の生態系に存在する12の疾病に関する研究を分析した。すべての研究で、生物多様性が失われるに従い、病気の感染が拡大していた。例えば、地域における小型哺乳類の多様性の減少によって、ハンタウイルスという、人間に感染すると致命的な肺の疾病を引き起こす感染症が宿主の動物において増加し、その結果、人間への危険が高くなることを示す研究が3つあった。
そのうちのひとつ、米オレゴン州で行われた研究では、地域における哺乳類の多様性が減少するに従い、シカネズミにおけるシンノンブレハンタウイルスの感染が2%%から14%%まで増加したことが分かった。また、ユタ州での研究でも同様の結果が見つかっている。3つ目の研究では、パナマにあるいくつかの研究拠点で小型哺乳類の多様性を実験的に減少させたところ、拠点ごとにほぼ5個体前後だったウィルスの宿主である動物の数が、6個体以上に増加した。
他には、3つの別々の調査で、アメリカでの西ナイル脳炎の増加と、鳥の多様性の減少との間に強い関連性があることが明らかになった。鳥の多様性が低い地域では、ウィルスに感染しやすい種が多く、これが蚊や人間の感染率を高くする要因となった。対照的に、多種の鳥が生息する地域では、ウィルスの宿主になりにくい種が多かった。
しかし、新しい病原体の出現に生物多様性がどのように影響するかを調べてみると、調査によって結果はさまざまだった。ある研究では、生物多様性が豊かな領域のほうが、病原体が野生生物から人間へと種の壁を飛び越える確率が高くなるという結果が出た。
生物多様性は新しい病気の源であるかもしれないが、いったん病気が出現すると、より豊かな生物多様性は保護的役割を果たすのだと、キージングは言う。
キージングのチームは、この病気の出現に関する研究データを再分析し、新しい病気のおよそ半分が人間の土地利用、農業、ブッシュミート狩猟などの食糧生産活動における変化と関連していることを突き止めた。これらはすべて人間と野生生物が接触する機会を増やすもので、豊かな生物多様性ではなく、むしろこの接触機会の増加が病気の出現を引き起こした可能性が高いのではないかという。
「手付かずの広大な地域を保全し、野生生物との接触を最小限にとどめることが、病気を減少させるための大きな一歩となるでしょう」、とキージングは言う。
キージングらのレビューは、生物多様性が感染症の拡大を止める役割を果たしているということをはっきりと表している、とウィル・ターナーはいう。ターナーは生態学者で、ヴァージニア州アーリントンに拠点を置く活動団体コンサベーション・インターナショナルの保全優先順位担当責任者である。
ターナーは、研究者がメカニズムの働きを理解できるまでには長い道のりがあるが、「明確なメッセージは、人間が生態系を劣化させ、自らを危険に追い込んでいる」ということだという。
参照:
(1) Keesing, F. et al. Nature 468, 647-652 (2010).
2010年12月1日
Nature News
http://www.nature.com/news/2010/101201/full/news.2010.644.html
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