天然の牡蠣、絶滅の危機

ALIVE海外ニュース 2011.5-6　翻訳：宮路正子

乱獲で世界の牡蠣礁の８５パーセント以上が枯渇、BP（ブリティッシュ・ペトロリアム）の重油流出も大打撃に

牡蠣がまだあるうちに殻むきを楽しんだほうがいい。今、天然の牡蠣は、世界中のかつては豊富にあった多くの場所で“機能的絶滅”（生息個体数が少なく、種として生存するための繁殖能力を失くしている）状態にある。新しい調査によれば、牡蠣礁の８５パーセント以上が乱獲のために消失している。

牡蠣の個体数減少は非常に深刻で、世界中でまだ残っている牡蠣の４分の３は、北アメリカの５ヶ所にある。そして、かつては有名な牡蠣の産出地であったイギリスのエセックス沿岸、オランダのワデン海、米ロードアイランド州ナラガンセット湾などでは、わずか1パーセントの牡蠣礁が残るのみとなった。現存する天然の牡蠣を保護する措置が何も取られなければ、我々の世代で絶滅する可能性もある、とカリフォルニア大学サンタクルス校のマイケル・ベック博士はいう。

ベック博士を中心とする海洋生物学者の研究チームは、世界中の４０の領域で、かつてはさまざまな生物が生息していた１４４ヶ所を調査した。今週のBioScience誌に発表されたこの調査によると、さまざまな種に関する概況は“芳しくない”。この調査はこれまでの天然の牡蠣資源に関する調査のなかでも最大規模のものだ。牡蠣は、海水からの不純物の除去、魚類個体群の生息支持、海岸浸食防止において不可欠な役割を果たすので、その損失は大きい。

昨年夏のメキシコ湾における重油流出は、世界中で唯一、天然牡蠣の捕獲量が以前と変わっていなかった場所を襲った。ベック博士は、この災害が特に豊かだった牡蠣礁の半分を破壊させたとみている。

調査データによれば、牡蠣礁は、湾の７０パーセント、エコリージョン（陸地および水圏の比較的大きな地域を含み、地理的に異なった特徴的な生態系の集合体を含む生物地理学的地域）の６３パーセントにおいて、かつての１０パーセント未満しか残っていないという。これらの牡蠣礁は機能的絶滅状態、つまり、生態系における本来の重要な役割を果たす機能を失っており、多くの湾（３７パーセント）やエコリージョン（２８パーセント）、特に北アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパでは、かつての生息数の１パーセントに満たない状態だ。

天然の牡蠣の運命は、歴史におけるその役割に照らし合わせると歴然としている。ローマ帝国時代、牡蠣は英仏海峡を透明に保つのに十分なほど生息していたが、ビクトリア時代後期には、労働者階級の主食とみなされ、１８８０年には、イギリスだけで約１２万人が牡蠣の採捕を生業とし、世界中で年間あたり約７億個の天然の牡蠣を消費していた。

牡蠣の個体群はその後、近代的漁法によって破壊された。特に影響が大きかったのは、底引き網という、網で海底全体を根こそぎさらう漁法だ。そして、世界中を旅行できる時代の到来で状況はさらに悪化した。外来種生物と共にそれまで存在しなかった疾病が新たに持ち込まれたのだ。今日、レストランで消費されている牡蠣は、まだ天然牡蠣が採捕されるメキシコ湾産のものを除いて、ほとんどすべて養殖のものだ。

かつて牡蠣がどれほどだくさんあったかを、ほとんどの人々が忘れているので、その消滅はあまり意識されていない、とベック博士はいう。１９世紀のサンフランシスコでは、大陸横断鉄道建設に携わる労働者の食料として提供された。あまりに大量にあったので、作家ジャック・ロンドンは牡蠣の密猟者であると同時に牡蠣密漁取締官でもあったというが、今日、サンフランシスコ湾には天然の牡蠣はただのひとつもない。

牡蠣が好むのは淡水と海水が交じり合う沿岸水域だ。長い期間をかけて、死んだ牡蠣の殻は積みあがって牡蠣礁となり、これは他の魚に貴重な生息地を提供し、海岸線を浸食から保護した。しかし、牡蠣礁のあちこちを傷つけるような活動により、牡蠣は環境の変化がもたらすストレスに影響を受けやすい状態になった。

昨年、海水を清掃する際に、BPのディープウォーター・ホライゾン・リグから流出する油を分散させるためにミシシッピ川から膨大な量の淡水を放流することになり、メキシコ湾で多くの重要な牡蠣礁が破壊された。この淡水の放流により、海水の塩分濃度が変化し、この領域の何ヶ所かで生息していた牡蠣が全滅したのた。

ベック博士は、「我々が何もしなければ、牡蠣は絶滅する可能性があります。多くの場所では、すでに機能的絶滅状態であることが判明しましたが、今、行動を起こし、適当な手段を取れば、牡蠣を絶滅から救うことができると確信しています」といい、天然の牡蠣礁が以前の１０パーセント未満しか残っていない領域すべてにおいて、底引き網、牡蠣の採捕、そして現存する牡蠣礁に害を与えるかもしれない活動をすべて禁止することを提案している。

２０１１年２月６日　Independent.co.uk
http://www.independent.co.uk/environment/nature/wild-oysters-in-danger-of-extinction-2205743.html