【イギリス】
行動域の広い肉食動物は、動物園で苦しむ
ALIVE海外ニュース 2004.1-2 翻訳:宮路
動物園動物の福祉に関する研究によれば、野生において行動域の広い肉食動物は、それほど行動域の広くない動物と比較して、オリに入れられている状態に対する反動が大きい。
論文をまとめたオックスフォード大学のロス・クラブは、良好な状態で飼養できないのであれば、飼養すべきでないといい、研究チームは行動域の広い肉食動物を飼養するべきではないと結論を下している。科学者はこれまでにも行動域の重要性を示唆してきたが、この新しい研究では、初めて、包括的なデータによってこれを示している。
しかし、動物園側は、飼養動物の繁殖における重大な役割を果たしていると主張し、その立場を正当化してきた。また、質の良い動物園は動物の囲いを「豊かにする」ために大変な努力をしているという。
幼体の死亡率
クラブと共同研究者のジョージア・メイソンは、これまでに発表された研究から35頭の肉食動物に関するデータを集めた。ひとつの分析では、種ごとの行動域の最小値と飼養個体の幼体死亡率を対比させた。死亡率は、世界中の500以上の動物園での2万6千ほどの誕生数から算出された。
分析から、ホッキョクグマのような行動域の広い動物は、アメリカミンクのような比較的行動域の狭い動物より、人間の飼養下では生後30日以内の死亡率が高いことが分かった。行動域の広さと野生における幼体の死亡率とを比較した場合、そのような関連性はなかった。
ホッキョクグマの行動域は、典型的な囲いの大きさの約100万倍あり、また、この種は飼養下において問題行動が起きることで知られている。
しかし、この研究には問題があるという専門家もいる。アメリカ動物園水族館協会(AZA)のマイケル・ハッチンズは、データが種種雑多な動物園から集められているので、おそらく福祉基準の低い施設のものも多数含まれているだろうという。アメリカおよびカナダの免許を所有する飼育施設のうち、AZAの基準を満たしているとして認可されているのは8パーセントしかない。これに対してクラブは、サンプル数が十分に多いので、そのような偏りはあり得ず、結果をゆがめるためには非常に多くの劣悪な動物園からのデータが含まれていなければならない、と反論する。
ペーシング時間
研究では、また、動物が、ストレスを示す指標であると考えられているペーシングに費やす時間の割合が、行動可能域によって増加することも発見したが、これは、約40の動物園からの約300頭の動物のデータに基づいている。
この研究は、種間の違いの基となる生物学的原則が存在することを示しており、このことは福祉問題の原因を今以上に理解するために役立つ、とクラブはいう。
しかし、ハッチンズは、動物園はすでにこの問題を認識しており、これはどのような意味においても新たな発見ではないという。ハッチンズによれば、野生における行動域の多様性を模倣するために、現代の動物園は技術を駆使しているという。例えば、給餌の時間や位置を変えたり、動物が来訪者から身を隠すことができるような目隠しを作ったりしている。
また、イギリスの動物園連合の代表、ミランダ・スティーヴンソンは、行動域の広い肉食動物を動物園に展示すべきでないという考えを否定している。研究は、大型肉食動物が苦しんでいることを示してはおらず、これらの種によい環境を提供するのが動物園にとって(他の種と比較すると)より困難だといっているのだという。
2003年.10月1日
New Scientist Online News
http://www.newscientist.com/news/news.jsp?id=ns99994221
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