ALIVE海外ニュース 2009.3-4 翻訳:宮路
飼育ゾウは野生に暮らすゾウの半分の寿命しかない
研究者はゾウの健康チェックと飼養の段階的廃止を要請
ゾウが人間の飼養下では深刻な健康問題を抱え、はるかに寿命が短いことを示す2 つの研究が発表され、動物園でのゾウの飼養の段階的な廃止を促す意見が出ている。
動物園で生まれ、飼養されるゾウは、捕食動物の餌食になることもなく、野生よりも良い環境で暮らしているにもかかわらず、原産国のアフリカやアジアにいる野生の個体の半分しか寿命がないという。
死亡原因の多くは肥満と関連があると考えられている。というのも、栄養たっぷりの食事を与えられ、狭いオリの中でほとんど運動できないからだ。また、動物園から動物園へ移動させられたり、母親と離されたりすることから来る、過度のストレスにも原因があるという。
科学者は、動物園が肥満の個体やストレスを受けている個体を特定するために早急なゾウの健康チェック導入を呼びかけている。
研究のひとつは、英王立動物虐待防止協会(RSPCA)の野生生物科学官、クラブ博士が中心となってまとめ、1960年から2005年の間にヨーロッパ各地の動物園で飼養されていた786頭の雌のアジアゾウとアフリカゾウの記録を分析したもので、アメリカの科学誌“サイエンス”に掲載された。この研究では、動物園で飼養されているアジアゾウの寿命とミャンマーの木材企業の使役ゾウの寿命を比較し、アフリカゾウは、動物園のゾウの寿命とケニアのアンボセリ国立公園に生息するゾウの寿命を比較している。
アジアゾウの平均寿命は、動物園で生まれたものは18.9年、ミャンマーの使役ゾウは41.7年だった。アフリカゾウの平均寿命は、動物園の個体は16.9年、野生では35.9年だった。国立公園内で人間に殺される個体を統計から除外すると野生での平均寿命は56年となり、動物園で飼養されている個体の平均寿命の3倍にもなる。
「人間に飼養されているゾウのほうが、野生の個体より、よく世話をされているのだからより長生きするか、少なくとも同じくらいは長く生きる、と思いがちですが、そうではなかったのです。寿命の差は甚だしいものでした」とクラブ博士はいう。
英環境・食糧・農村省の委託によるもうひとつの研究では、イギリス国内にある13の動物園の77頭のゾウの福祉について調べた。その結果、ゾウは平均して83%の時間を屋内で過ごし、71頭が太りすぎであることが分かった。また、正常に歩行できるのは、わずか11頭だけだった。
「動物園がゾウの保全に必要不可欠な役割を果たすという意見をよく聞きますが、どうやら、それは事実ではないようです。今回の研究によると、ヨーロッパの動物園ではゾウは早死にし、人間に飼養されているアジアゾウは生存のチャンスが低いのです。ゾウの寿命を動物園で縮め、不健康な生活を強いるより、本来の生息地での保全プログラムを促進するべきなのは明らかです。この歴然とした証拠から判断すると、ゾウは動物園で悲惨な時間を過しており、彼らの福祉問題を改善するための行動が緊急問題として取らなければなりません」と、RSPCA野生生物学部門のロブ・アトキンソン部長はいう。
動物園におけるゾウの囲いは、野生における最小の生息域の60分の1から100分の1程度しかない。アフリカゾウは2000平方マイル(約5200平方キロメートル)、アジアゾウは300平方マイル(約780平方キロメートル)の範囲を移動する。人間に飼養されているゾウには、また、子殺し、結核、ヘルペス、歩行障害などの危険性もあるという。
2008年12月12日
The Guardian
http://www.guardian.co.uk/science/2008/dec/12/elephants-animal-welfare