クロアチアにゾウを送る計画は、停止していますが、このような考えがある限り、動物を「友好」の道具に使うという習慣はなくならないと思います。
これからは、21世紀にふさわしい、動物保護に役立つ国際交流のあり方について考えてみたいと思います。当会では、以下の手紙を送りました。
2002年8月23日
クロアチアに象を贈る会 御中
クロアチア・スージー基金 御中
貴会のホームページにて、クロアチア政府の意向でゾウの受け入れが拒否されたこ とに関する見解を拝見いたしました。口蹄疫、CITES、関係国の許可等の手続きがやや
拙速であったかもしれないと書いておられ、ゾウを取り扱うにあたっては、単に当事 者の善意だけではなく、野生動物の保護、飼育における動物福祉、防疫上の法規など
関連する分野に対しても慎重な配慮が必要であることを、支援者の皆様に対してもご 説明いただいたことに感謝いたします。
貴会では、当初の目的であるクロアチアの子供たちとの平和と友好のために、今後 も活動を続けられるご意向と存じますが、これからは、生きたゾウをやり取りしなく
ても、子供達に希望と喜びを与える、21世紀にふさわしい方法があるかと存じます。
これまでの皆様の、平和と人権のために尽力されてきたご活動に敬意を表しますと ともに、今回のご計画についての私どもの見解を述べさせていただいた上で、今後の
方針につきまして、当会の趣旨である動物の保護と福祉を尊重する観点から、ご提案 させていただきたく存じます。ご検討いただければたいへん幸いと存じます。
1、家畜伝染病の問題
クロアチア政府がゾウの受け入れを拒否した理由の一つに口蹄疫のおそれがあげら れていますが、経済や流通のグローバル化に伴って、家畜伝染病や人獣共通感染症は
国境を越えて拡散し、世界的に大きな問題となっています。たとえ、口蹄疫発生国の スリランカ(輸出国)側が安全性を主張したとしても、輸入国側は自国が被る被害の
おそれから、受け入れを拒否することがあり得ます。現在、他の多くのアジア諸国で も口蹄疫が発生していることから、今後ともアジアゾウを輸送する計画は、この観点
からも困難であると考えられます。
2、ワシントン条約の規制
ワシントン条約(CITES)の付属書Iの動物の輸出入は、種の保存に貢献する学術目 的に限って許可されることになっており、動物園での飼育も単なる展示目的では認め
られない方向になっています。貴会では、学術目的のためのゾウ取引ではないことを みずからがアピールされていた経緯がありますが、これはCITESの趣旨にそぐわないこ
とになります。希少野生動物の保護は世界の人々の共通の関心事であり、欲する者と 与えたい者当事者間だけの可処分物ではないという考えに立って、近年のCITESを始め
とする国際条約や動物保護のための諸々の法規が設けられていることをご理解いただ ければと存じます。
3、長距離輸送の問題
一般に動物の輸送は動物福祉の重点課題の一つであり、長距離輸送により動物が強 いストレスを受け、心身の苦痛を覚えたり病気の発生率、死亡率が高まることは、現
在では獣医学的な常識として受入れられています。そのためEUでは動物の輸送につい て厳しい規制措置を設け、連続輸送時間を制限しています。また各国の航空会社で
は、野鳥の輸送を受入れないところが増えています。その他の野生動物も輸送により 高率で死亡しています。
野生動物であるゾウは、家畜以上に輸送ストレスには弱いと考えるべきと思われま すし、航空輸送と陸上輸送を組み合わせたとしても、移動時間だけでなく積み替えや
待機中の時間など、ゾウはこれまで経験したことのないストレスの強い状態にさらさ れます。その上、スリランカからクロアチアへの輸送では、移動中に気候が急変する
ということもストレス要因となります。輸送に最大限の配慮を行ったとしても、輸送 中や輸送直後の動物は健康状態が低下していることを想定し、環境の激変に動物がゆ
っくりと適応してゆく間、ストレスの低い状態で手厚いケアを受けられるようにして やるべきなのですが、ご計画では、映画やセレモニーの都合が優先されているように
も見受けられました。このようなことから、ソウの長距離輸送に懸念を表したもので あることを、ご理解いただければ幸いです。
なお、EUでは、動物の輸送に関する具体的内容を定めた法律があり、加盟国はこ れを守らなければなりません。今回、加盟国のルクセンブルグを通過する計画であっ
たことから、そのような法令に合致しているかどうかを検討する必要もあったかと存 じます。
4、飼育環境の問題
オシエク動物園の飼育環境については、地元の動物保護団体が、「同園にはゾウを 収容し養うのに最低限必要な環境もなく、それ以外にも必要な管理全般を行える状況
ではないこと、1991年以来、同園には、ゾウの管理や生存にとって最低限必要な条件 を満たせる物資も人員もなく、こうした問題を検討するためのプロジェクトも現時点
まで皆無」と述べています。
先方が持参した写真や図面だけでは、専門的観点からの十分な検討は行えなかった 可能性があり、ゾウの福祉に責任をもつためには、送る側からもきちんと評価のでき
る専門家を派遣して、たとえば、長期的に考えられる状況をすべて想定し、チェック し、質問し、誓約書を交わし、問題が生じたときのフォローを日本側が行えるような
体制をとっておくことも、求められていたと思います。
しかも、ゾウのように寿命が60年もある動物を飼育する責任は、今後すべて受け 入れ国の負担となるわけですから、事前に受け入れ側の体制について、長期的に想定
される問題も含め、あらゆる角度から万全な飼育体制を確保する必要があったと思わ れます。
5、今後の方針について
50年前とは異なり、現代は開発や自然破壊などによって、世界中で多くの野生動 物が絶滅の淵に追いやられ、それ故に、野生動物がその本来の姿のままで自然の中で
懸命に生きている姿が、多くの人々に感動を与える時代です。
21世紀の子供達は、絶滅の危機にあるアジアゾウが本来の生息地でいつまでも生 きていけるような、平和で、緑豊か世界の実現を願うに違いありません。
そのような目標については互いに思いを共有できるものと存じます。その目標実現 のための方法については、皆様の当初のご意向とは異なるものとなりますが、ここに
ご提案させていただきたく存じます。
1、スリランカのゾウの孤児たちのフォスター・ペアレント(里親)計画
(1)ゾウはスリランカで飼育する(クロアチアに送る計画は取りやめとする)。
(2)贈る会事務局、スージー基金、オシエク動物園、スリランカのゾウ孤児院の4 者の代表からなるフォスター・ペアレントの会を発足させる。
(3)本部と基金は運営がもっとも円滑にできるところに置く。
(4)基金はスリランカの孤児院の運営費にあてる分と、フォスター・ペアレントの 会の発足および運営費とに分ける。
2、映像によるイベント
(1)オシエク動物園で、映像によるゾウのおひろめ式をする。
絶滅の危機にあるアジアゾウの映像をあわせて流し、戦争や環境破壊によって人間ば かりでなく野生動物も大きな被害を受けていることを伝える。
(2)おひろめに参加し、ボランティアをした子供たちは、好きなほうのゾウの里親 証明書(成人になるまで)と写真をもらえる。クロアチアの子供、日本の子供を問わ
ない。
(3)子供たちが成人したら、自分の意志で、里親を継続するかどうか、決めてもらう。
3、平和と環境教育プログラム
(1)オシエク動物園に映像中心のゾウコーナーを設け、3カ国の友好と自然保護の PRの場にする。このような先進的な試みは、オシエク動物園の地位を国際的にも高
めることになると思われる。
(2)展示内容については、動物保護団体やゾウ専門家の助言を受ける。
(3)日本人スタッフも協力し、ときどき展示を更新する。
(4)パソコンをゾウのコーナーに置いて、インターネットで、ゾウたちの現地の様 子を知り、日本の子供たちとも交信できるようにする。
(5)2頭のゾウの成長を3カ国で協力して見守ることで友好と平和の輪を広げる。
(6)その他、平和と環境に寄与するようなさまざまな楽しいイベントを募集し、実 現をはかっていく。
4、スリランカのゾウの保護計画
(1)スリランカのゾウの孤児院では、野生復帰をめざしているとのことなので、こ こをゾウのサンクチュアリ(保護区)とし、孤児のゾウをできるだけ野生環境に近い
状態で飼育できるように支援する。
(2)インターネットやビデオ、写真などの映像を通じて、ゾウたちの生育状況を適 宜、世界に発信していく。
(3)スリランカの開発によって引き起こされている人とゾウとのあつれきにどのよ うに対処するか、対策と支援のためのアピールを発信する。また、ゾウを介して、戦
争や環境破壊といった問題を学び、世界の子供達の交流と相互理解を深めていく。
ちなみに、フォスターペアレント制度は、野生動物および飼育動物の保護のために 広く市民が参加する制度として各国で行われており、関係する動物保護団体がそのノ
ウハウをもっておりますので、必要ならさまざまな関連情報をお送りすることができ ます。
上記のような活動のためには多くの費用がかかるかと思いますが、寄せられた基金 をそのような活動に活用していくならば、寄付をされた方々にもよろこんでご賛同い
ただけるのではないかと存じます。
これからの半世紀、子供たちもスリランカのゾウたちも、共に、平和に安全に生き ながらえて、喜びを分かち合えるような世界となることを、心から願ってやみません。
地球生物会議(ALIVE)