2004年7月1日
アジアゾウの輸入を許可しないように求める要望書
経済産業大臣 中川昭一 様
(所轄:貿易局貿易審査課農水産室)
当会は、野生動物の取引の監視および動物園等飼育施設のチェックを行っている全国規模の動物保護団体として、タイを原産国とする子供のアジアゾウ2頭の輸入に関して、以下の理由から、輸入の許可がなされないよう要望いたします。
地元の新聞(6月5日付け 旬刊宮崎)によると、宮崎市制施行80周年を記念してタイのスリン県から宮崎の子供たちに6歳のアジアゾウ2頭(オス、メス)が友好のために寄贈されるとのことです。この記事によれば、7月初旬にバンコクより関西空港へ、到着し、24日に宮崎市フェニックス自然動物園で歓迎記念式典を開く予定であると記載されています。
当会で貴省の担当部署に電話にて問い合わせたところ、6月29日現在、正式の書類はまだ出していないが、事前照会は行われており、詳細について調査中だとの回答でした。そこで改めて、以下の事項に関してご検討いただきたくお願いいたします。
1,ゾウの由来に関して
アジアゾウは絶滅に瀕する種としてワシントン条約で取引が規制されています。今回輸入申請のあったタイのゾウは繁殖個体(ソースC)として、非商業目的、共同保護計画のもとに輸入申請がされているとのことです。しかし、アジアゾウは完全な飼育下における繁殖は非常に難しく、世界的にみてもほとんど行われていない状態です。
タイでは野生状態に戻して繁殖させており、これを完全な繁殖個体ということができるか疑問です。十分な調査のもとに確証が得られない限り、安易に輸入を許可すべきではありません。
2,動物福祉に関して
ワシントン条約では、受け入れ先の施設が動物福祉に適った適切な施設であることを事前に確認することを求めています。日本ではゾウを飼育するほとんどすべての施設において、動物の本来の行動や習性が満たされないストレスからくる痛ましい異常行動が見られます。これは、野生動物であるゾウを人工的かつ狭矮な飼育環境に閉じこめたことに起因しています。
残念ながら、日本には動物園に関する法律も存在せず、動物の飼育環境は一般に非常に劣悪です。住民からも宮崎市動物園の飼育環境には問題があるとの情報が当会に寄せられています。果たしてゾウの飼育環境として適切であるかどうか、現地調査がなされるよう要望いたします。ちなみに、ゾウ舎の飼育環境についての資料を添付致しますのでご参考にして頂ければ幸いと存じます。
3,ゾウを飼育する目的について
日本では動物園がゾウを飼育する理由として繁殖目的をあげますが、ゾウは単にオスとメスがいれさえすれば繁殖するというものではありません。日本の動物園ではかつて1頭もアジアゾウの繁殖が見られておりません。唯一、今年の3月に王子動物園で初めて子供が生まれたものの、母親ゾウが飼育を放棄したため人工育児がなされています。本来、母系の群れを作り高度な社会生活を営むゾウの心理や生態を蔑ろにした飼育方法が、ゾウに多大のストレスを与え、繁殖をも困難にさせている要因です。
また、ゾウのオスは成獣になると制御が難しく危険でもあるため、飼育自体が困難で
す。
4,ゾウのプレゼントという悪習について
2002年にもタイのスリン県から上野動物園へゾウがプレゼントされていますが、絶滅のおそれのある希少な野生動物を「友好親善」の美名のもとにやり取りするような悪習は最早廃止するべきと考えます。日本の動物園は、現在どこでも入場者が減少し赤字状態です。寿命が60歳以上もあるゾウの飼育経費は、ただでさえ赤字財政の動物園の経営を圧迫するものとなるでしょう。生物多様性条約を批准した我が国では、野生動物は野生(本来の生息地)で保護するという理念を国が率先して普及させるべき責務があると考えます。
添付文書
1,EU動物園指令(2002)、英国動物園免許法(2003)同飼育基準
2,OIE(国際獣疫事務局)の動物福祉の原則に関する指針
3,飼育下におかれたゾウの現状と環境改善(要旨)
海外でも大きな反響!
海外の動物保護団体(ボーンフリー財団と14の動物保護団体の連名、インド、スリランカ、ネパールの動物保護団体、WSPA本部などからも、経済産業省貿易審査課、宮崎市長、宮崎フェニックス自然動物園あてに要請書が送られています。(以下、抜粋)
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INTERNATIONAL CALL FOR SUSPENSION OF ELEPHANT IMPORT
ボーンフリー財団 と ALIVE は本日、日本政府に対してタイ王国から日本へギフトとして贈られる予定のアジアゾウ2頭の輸入停止を求める次第です。
ボーンフリー財団 チーフエクゼクティブ ウィル・トラバース氏は、「ボーンフリー財団は、このゾウたちが日本で飼育される際に受ける福祉上の影響に関して重大な関心を寄せています。
ゾウは複雑な社会生活を営む動物であり、現在、ゾウを飼育する際にその肉体的、心理的必要性を満たすことが可能な動物園は事実上、例外なく存在しないということが国際的に認識されています」。
「先般、マレーシア政府が中国向けの野生捕獲のゾウ輸出を一時停止するという決定がありましたが、この決定は国際的な野生生物保全コミュニティーより大変歓迎されました。今回の私共による要請もこれに続くものです」。
「また今年はじめに行われたタイから中国への8頭のアジアゾウ輸出の際には、2頭のゾウが死亡しており、現在この件は調査中です。絶滅に瀕している野生動物を外交上のギフトとして利用することは、国際社会において近年ますます批判を浴びているところです。アジアゾウは生息地の減少と象牙目的の密猟という深刻な脅威にさらされている絶滅危惧種であり、ゾウの生息数がもはや少なく均衡を保持することも困難な状況にあることを考慮するならば、タイ王国と日本の両政府はどのようにすればゾウを本来の生息地で保全できるかを考えるべきでしょう。
彼らを展示するために飼育するのではなく」と述べている。
今月日本に到着予定のゾウは、宮崎市フェニックス動物園で展示される予定です。ボーンフリー財団及び ALIVEは日本の方がたに対して経済産業省大臣 中川昭一氏へ今回の輸入を即時中止するように要請していただくよう、ここに要望する次第です。
注 IUCN 種の保存委員会アフリカゾウ専門家グループ(AfESG)は以下のように述べている。 “…AfESG
は飼育下にあるアジアゾウにおいて繁殖の成功例が極めて少なくまた寿命が短いこと、さらに飼育下における繁殖がアジアゾウの種の保全に対して何ら有効に寄与していないことに対し、憂慮するものである。”