野放しの悪質ブリーダー
愛知県の西尾市で悪質ブリーダーが100頭以上もの犬をひどい状態で飼育していたことは会報の前号でお知らせしました。
10月の初旬、会員の方から愛知県の西尾市の悪質ブリーダーが犬達を悲惨な状態で飼育しているとの知らせが入りました。それによると、「畳3枚くらいのところに大型犬を10頭も押し込んでいる。小型犬のところは、糞尿を掃除しないで上に新聞紙を敷くだけもうぐちゃぐちゃだ。100頭以上がひどい状態で飼育されている。」という話です。この知らせを受けて、名古屋から稲垣さん(生きものSOS)が直ちに愛知県庁に調査と対処の要望をされました。県はこれまでこの業者の存在さえ把握しておらず、近所の住民による悪臭、不衛生、ノミの発生等について保健所は苦情調査はしても、犬の登録と注射の義務、飼育方法については何の指導も行っていませんでした。
しかも県では当初、所有者のブリーダー、K氏に所有権を放棄させた後は、通常の引き取り業務として殺処分する方針でした。しかし、当会等からの働きかけによって急遽方針を変更し、里親譲渡をすることに決定。これは愛知県の動物行政にとっても大きな決断であり、高く評価したいと思います。ちなみに、愛知県の警察は「動物虐待での立件は難しい」として動きませんでした。
10月26日私達は現地を訪れ、犬達の悲惨な状態を実際に目撃しビデオや写真で撮影しました。翌27日、県(保健所)が業者の施設を立ち入り調査し、99頭の犬を確認。1週間かけて県の3つの施設に引き取ることを発表しました。このニュースは、朝日新聞(名古屋版)朝刊で大きく報道され、当日は地元のテレビ局全社が現地取材しました。私達は収容予定先の愛知県動物保護管理センターを訪れ、今後の方針などを要望しました。
犬達の救出へ
その後、会に寄せられた寄付で、犬小屋、サークル、首輪、リード、ドッグフード等を届けて頂きました。会員の方々がボランティアで何回もセンターに通い、汚れきった犬達を洗ったり薬浴させ爪を切るなどし、中でも最もひどい状態の犬は引き取って動物病院に入院させるなど、できる限りの手当をしてくださいました。
11月18日に、県は県庁で記者発表をし、11月28日に里親譲渡会を行うことを公表しました。当会では、昨年のブルー十字の440頭の犬猫の里親探しをされた富山の村田さん(北日本動物福祉協会)のアドバイスも頂き、次のような要望を行いました。
一般譲渡のときのチェック事項
- 犬を飼える条件を満たしていること(家族の同意があること、など)
- 終生責任をもって飼育できること(犬の登録と注射を行う)
- まだ病気が治っていないので、治療を続行すること(1頭毎の犬について病状や治療方針を記したカルテを添付)
- 体力が回復したら必要に応じて不妊去勢手術をすること(繁殖させない)
- 経過報告を犬と家族の写真を添えて送っていただくこと(1週間後、1ケ月後、半年後など)
- 里親の身元確認を必ず行うこと(運転免許証などの写しの提出を求める)
- もちろん、業者などには渡さないこと。
幸い、県はこれを実施する方針を表明し、28日に里親譲渡が行われました。マスコミも大きく取り上げてくれ、里親の希望者は800名も寄せられました。電話の聞き取りでそのうち110家族に絞って当日の案内をしたとのこと。当日は300人もの方々が家族連れで動管センターを訪れ、明るい雰囲気の中、無事すべての犬に里親が決まりました。
愛知県、特に三河地方にはブリーダーが多く、日本最大といわれるペットのせり市もあります。西尾市の例は、氷山の一角かもしれません。そのような中で、愛知県にはいまだ「犬による危害防止条例」という狂犬病予防法時代の古ぼけた条例しかありません。当会では、11月2日付けで県知事宛てに「条例制定を求める要望書」を送付しました。今後も、県に対して動物保護の精神に則った条例を制定するよう働きかけていきたいと思います。
犬の譲渡活動についての詳細は、『アバネットニュース』72号をご覧下さい。
センターの所長は、「この機会に動管センターのイメージの転換(殺すばかりではなく、助ける方へ)をはかりたい、若い職員たちもそう願っている」と話しています。次に望むべきは、愛知県がきちんとした条例を制定することです。
ALIVE No.24(1999.1-2月号)より中浦厚子
愛知県西尾市で虐待飼育されていた犬達が保護され、11月28日に県動物保護管理センターで里親譲渡会が開かれました。暖かな良いお天気の中で、救済された60匹の犬たちが一匹残らず新しい家族を見つけることが出来ました。
「殺す」から
「生かす」方への転換を
今回の事件は、新聞、週刊誌、TV等、マスコミに何度も取り上げられ、その結果、全国から引き取り希望者が数多く集まり、「殺処分」から「生かす」方へと方向転換した愛知県のはじめての試みとしては、大成功の結果となったことは幸運でした。
抽選で希望の犬の里親になれた人たちから歓声やら拍手が湧きあがり、楽しいイベント会場と化した中で、私の気持ちは複雑に揺れました。会場となったスペースには、たった一枚のシャッターを隔てて、殺処分を待つだけの数多くの犬たちの犬舎があります。
中からは、絶えず犬たちの泣き声が聞こえてきます。シャッターを隔てた内と外で、家族の一員として迎えられる命と、社会から排除され、殺されてゆく命とがわけられるなんて…胸がはりさけそうでした。できることなら、シャッターをあけて助けてやりたいと、一日中何度も何度も思い、やりきれない気持ちでいっぱいでした。
私が、はじめて保護された犬たちに会ったのは、11月12日でした。センターの庭に集められた犬たちを見て、思わず絶句してしまいました。純血種の犬ばかりのはずなのに、どの犬も外見からは犬種の判別がつかないくらい、ひどい有様でした。全身の毛が抜け落ち、豚のようになっている犬。目や耳が亀の甲のようなかさぶたでふさがっている犬。つめが伸びすぎて、歩くことの出来ない犬。目がつぶれている犬。そして…ほとんどの犬が疥癬やしんきんなど、重い皮膚病にかかっており、身体中傷だらけでした。くさくて、ほこりや糞尿にまみれ、栄養失調で骨がとび出ていました。あまりの哀れな姿に、シャンプーをしながら、涙がこぼれて仕方ありませんでした。
辛い目にあってきたのにもかかわらず、どの犬もおとなしく従順で、人間をこれっぽっちも恨んでいないことにはおどろかされました。短い間でしたが、犬達の世話をすることができ、シャンプーするたびにきれいになってゆく犬達を見るのは、心はずむ思いでした。
うつろな目をした犬達が、会うたびに表情豊かになり、甘えて体をすりよせてくれたことは、忘れられない想い出になりました。
かわいそうな犬達を救いたいという人の感情に訴え、多くの里親を見つけることができたのは、確かに成功でした。でも大きな問題も残りました。
今回一番欠けていたことは、一頭一頭症状が違っている犬達の病状の詳しい説明ができていなかったこと。そして獣医による一頭一頭に対する適切な飼育指導がなされなかったこと。ただ、かわいそうだから助けたい、という気持ちに頼るだけでなく、家族の一員として支障なく生活できるような適切なケアをきちんとなされるべきだったと思います。
一日も早く、有効性のある動物保護法の制定が望まれます。今回の事件に関わり、学んだことを胸に刻み、動物たちのためにこれからも精一杯活動していきたいと思っています。

今回の事件は、氷山の一角であり、救済された犬達は幸運でした。今こうしている間にも、人間の勝手で捨てられたり虐待されたり殺処分されたりする動物たちのことを思うと、少しも心は晴れません。