１、全国の自治体が実験譲渡を廃止している
1990年以降、家庭動物である犬や猫を動物実験に提供してきた都道府県等は急速に減少し、平成18年（2006年）にはほぼゼロになる見込みである。一般世論の高まりを受けて、全国の自治体が、動物愛護行政の推進のためには、実験譲渡は阻害となるとしてこれを廃止してきた経緯があり、今後、時代に逆行するような実験譲渡が再び復活する可能性はない。
※資料１（自治体の取り組み）を参照のこと
２、実験に払い下げる犬猫自体がもう存在しない
行政が引き取る犬の数は、過去３０年間で６分の１にまで激減している。このままで推移すれば、今後１０年後には犬の殺処分数はゼロになることも夢ではない。
従来、実験用に回される犬猫は若くて健康で人によく慣れたものが選ばれてきたが、現在はそのような犬猫は優先的に一般家庭に新たに譲渡されており、多くの自治体で、実験者が望むような犬自体がいないのである。（猫の場合は８０％以上が生後１、２ケ月の子猫であり、実験の対象とはならない。）
３、動物愛護法の趣旨に違反する
犬猫等の家庭動物は終生愛情飼育が原則であり、どうしても飼育が止むを得なくなった場合に限り、飼い主の求めに応じて行政がこれを引き取らなければならない。しかし行政は引取に際し、動物実験に譲渡する旨を事前に飼い主に知らせることなく無断で実験に払い下げてきた。本来人間を信頼し家族同様に扱われてきた動物を実験という痛苦に満ちた状況に陥れることは、飼い主の意志に反している。家庭動物の実験利用は、動物の受ける痛みや苦しみを無視しており、せめて「安楽死」をと望んでいる飼い主の意向にそむいている。行政が処分方法のひとつとして実験殺を選択することは動物愛護法の趣旨に反している。
※資料２（実験譲渡の廃止を報じた新聞記事）を参照のこと。
広島市では、飼い主に、実験譲渡の際の同意書を求めたところ、大多数の飼い主が不同意で、実験譲渡数は激減した。
４、法の適用除外施設に譲渡することの過ち
動物愛護管理法で、実験動物の繁殖売買や動物実験に関する事項は適用除外されている。実験施設の届出制も立ち入り制も存在しない中で、家庭動物を実験室に送り込む場合、その取り扱いを
監視することも改善させることも不可能である。片方で実験動物の保護を無責任に法から適用除外し、片方で終生愛情飼育するべき家庭動物をその無責任体制の中に投げ込むのというのは理不尽である。
５、動物の「有効利用論」は本末転倒
医学のために払い下げ犬猫の実験が必要というならば、その払い下げ動物を提供している無責任な飼い主もまた必要ということになる。つまり、動物の遺棄・虐待という不法行為が存在しなければ医学は向上できないことになる。
どうせ殺すのだから実験に有効利用しようという考えは、無責任な飼い主の存在を維持させるように働きかけ、行政と市民が取り組んでいる動物の遺棄防止活動を逆行させるものとなる。消滅すべきものに依存しようと言う本末転倒の主張である。
６、研究者自身のモラルも頽廃させる
払い下げはタダ同然であるため、また、殺処分される動物であったという先入観から、研究機関での扱いがずさんになりやすく、生命に対する実験者のモラルを低下させ、無駄で残酷な実験を助長してきた要因の一つである。
※資料３（実験に払い下げられた犬たち）
７、かえって実験用犬猫の数が増えるという曲解
実験者側は研究予算が少ないからタダ同然の家庭動物を使うのだと主張する反面、それが入手できなければ、高い費用で他の動物を購入するからかえって犠牲数がふえるのだとも主張する。しかし、実際には、実験数の統計を見てもそのような証拠はなく、逆に犬猫の実験自体が減少している。高い費用で購入した実験動物は慎重に扱われることになり、犬猫の実験数自体が減少に寄与している。
８、実験動物としての「質」の問題
家庭動物を実験に使用してきた研究者自身も、次のように言っている。
「払い下げの犬猫は、個体差が大きく、由来も病歴も不明。どのような病気に感染しているかもわからない」「保健所や管理センターの檻にはパルボや白血病などの伝染病のウイルスが蔓延しており収容された段階で感染している場合が多い」「捨てられ捕獲され収容されたストレスで免疫が衰え発病するケースもある」
このような動物を使って実験をすること自体科学的意味がなく、動物の無駄使いである。
９、個体差があるから実験に適しているという詭弁
実験者側は、家庭動物は個体差があるがゆえに実験に適していると主張する。しかし、個体差が多様で、年齢、病歴、由来、嗜好、遺伝的特性等一切不明のペットを使用するならば、各実験者あるいは実験室ごとに条件が一致せず、実験結果もばらつき、科学としての再現性を期することができない。また、ペットの個体差を人間の人種、環境、生活・労働条件、嗜好、性格、遺伝等の多様性と比較することにも大きな無理がある。
１０、実験の「有効性」が不明
家庭動物を使った実験がどれほど「有効」に役立っているのか、実験責任者の名前も秘密、実験内容も非公開、実験施設も動物保護団体には見せない、公正な第三者機関による事前審査も事後調査もなされないという現状では、その研究にどのような意義があったのかさえまったく不明である。
実験者側の「医学研究」という大義名分さえあれば何をしても許されるという思い込みは、市民社会の声に耳を傾けようとしない傲慢・独善的なものである。
１１、実験施設の密室性
動物実験研究は密室下で行われている。実験施設における動物の状況（虐待・実験方法・実験内容・動物の運搬・飼育保管・殺処分・死体処分の方法等）やそれに関わる費用（実験規模・実験コスト・実験の成否等）については、公的機関による実態把握がほとんどなされていない。このような状況で実験者側が何を言おうと、密室の中で恐ろしい動物虐待が行われているのではないか、しかも動物の生命を無益に浪費しているのではないかという市民社会の不信感をぬぐい去ることはできない。
１２、国際的イメージの低下
ＥＵ（ヨーロッパ連合）ではペットを実験用に転用することを倫理的・科学的理由から禁止している。いつまでも家庭動物の実験譲渡を行うならば、動物虐待国日本という国際的イメージの低下は避けられない。実験者は可能な限りの努力をして動物の犠牲を避ける研究方法に転換するべきである。
地球生物会議（ALIVE）
以 上
ALIVEの紹介 