ラッコの捕獲・輸入申請は取り下げられました
日米の野生動物保護システムの違いも浮き彫りに
●日本の水族館、またもラッコの捕獲申請
昨年12月17日、伊豆三津シーパラダイスと鳥羽水族館が5頭の北ラッコの捕獲・輸出を米魚類野生生物局(FWS)に申請していることが、米政府のホームページに公示された。
FWSはこの種の申請について、公示日から30日間、申請内容などに関する一般からの意見書を受け付け、その後30日間で申請内容とそれに対する意見書などを検討し、認可、あるいは却下を決定する。
(※ちなみに、アメリカの情報公開法では、関係書類の申請をすれば国内外を問わず無料で入手でき、また意見書も国内外を問わず提出できる。日本の情報公開法(2000年4月1日施行)とは大きな違いだ。)
●日米の動物保護団体の反対
1998年にもいしかわ動物園、かごしま水族館、須磨海浜水族園の3水族館が、北ラッコ6頭の捕獲・輸出をFWSに申請した。日米の動物保護団体の反対にもかかわらず、申請は認可され、10月初めに日本に空輸されたが、到着後2日足らずで、かごしまで1頭が死亡、6日後にはいしかわで1頭が死亡した。共に死因は長時間の輸送などによるストレスだった。他にも様々な問題が指摘されており、今回の申請に対しては、日米両国で前回を上回る猛烈な反対運動が起こった。
地球生物会議は、前回に続きFWSに反対意見書を提出した。日本の水族館にはすでに100頭以上のラッコが飼育されている。まず国内の水族館間できちんとした登録制を実施し、情報公開を行うべきである。ストックがなくなればいつでも野生から補充すればよいとする安易な考えでは、日本の水族館はいつまでたっても野生捕獲に依存する体質を改めることができないだろう。
●アメリカの野生生物保護法
アメリカでは、内務省下にあるFWSが「海洋哺乳類保護法」と「絶滅の恐れのある種に関する法(ESA)」を管理している(北ラッコはワシントン条約の付属書II類の動物で、アメリカ国内でもESAの記載種)。いずれかの法で保護されている動物を捕獲する場合はFWSに捕獲許可申請をしなければならない。
その場合、申請者(水族館)は、飼育下の動物の福祉について規準を定めた「米国動物福祉法」を管理する農務省下の動植物衛生検査局(APHIS)に申請書のコピーを提出しなければならない。また、FWSへの助言機関である大統領直属の12名の科学者からなる海洋哺乳類委員会(MMC)にもコピーを提出しなければならない。APHIS,MMCの意見や助言は、法的効力はないが、FWSの決定に大きな影響力を持つ。
●アメリカ政府機関も捕獲に難色
今回のAPHISの意見書は、「伊豆三津、鳥羽共に、米国動物福祉法が国内の同様の施設に要求するレベルの動物に対する飼育・管理プログラムがあるとはいえない。鳥羽水族館は飼育動物の死亡率が高いようである。海洋哺乳動物の専門家による施設の立ち入り調査が望ましい。伊豆三津シーパラダイスについては、きちんとした管理体制下では防げたであろう事故死―溺死、同じ施設の他の個体にけがを負わせられた、などーの数が(多いのが)気がかりである」と述べている。
これを受けてMMCは、鳥羽については申請の却下か施設の立ち入り調査を、伊豆三津については申請の却下を薦める、とFWSに通知した。FWSがMMCの助言に反する決定を行うということは考えにくく、申請が却下されるのはほぼ確実となった。
●水族館が、ついに捕獲を断念
2月2日、両水族館の代行業者は突然、FWSに申請の取り下げを通知し、ラッコの捕獲を断念した。
日本の水族館・動物園の動物の飼育状況、施設の質などについては、国内外の専門家や動物保護団体などから、早急に改善の必要ありと指摘されてきた。
今回、海外の政府機関が、この2つの施設の飼育・管理基準が、自国の野生生物を輸出するには低すぎると公式に評価を下したことの意味を重く受け止めるべきだろう。
ALIVE No.31より抜粋
参考:
ラッコを野生のままに〜アース・アイランド研究所 地球生物会議共同プレス・リリース〜
ラッコの捕獲・輸入の中止を求めよう!
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