地球生物会議ALIVE　ドイツレポート３：犬種団体と繁殖の規制

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ゴールデンレトリーバークラブの繁殖規制
　

　このクラブは、犬の健康と狩猟能力、純血種特有の能力をさらに高め、その美しさを追求することを目標に設立された登録法人です。この団体の繁殖規制は、ゴールデンレトリーバーの生態の研究に基くもので、ドイツ犬生態協会の繁殖規制をさらに厳しくした内容となっています。以下は2007年6月30日より施行されています。


許可を受けた繁殖家でなければ繁殖は許されない


子犬は繁殖家の家族の世話を受け、見守られて成長していく

A. 繁殖業者の義務

１．繁殖業者は、良いオリと環境を犬に与える義務、良い繁殖計画、良い交配相手の選択、出産時の管理、良い子犬の育て方、子犬の買い手良い選び方、について勉強を続けて行かなければなりません。

２．新人の繁殖業者は、繁殖業者として長い経験を有する者を世話人として立なければならない。また、最初2回の出産までは、１匹の母犬しか所有できません。年に2回の講習を受けることになっています。

３．デパートやペットショップへ子犬を売った繁殖業者は、クラブから除名されます。

４．繁殖記録をつける
　母犬がどこから来たのかなどの情報と、クラブからの交配許可証、交配日、母犬と子犬の記録、子犬のワクチン接種表、マイクロチップかイレズミの番号の登録、子犬の買い主先の氏名と住所等を記載した売買契約書を作らなければなりません。

　クラブに対して、すべての書類や申し込みが期日より遅れた場合には、血統書が20パーセント値上げされることになっています。


子犬たちは最低でも生後８週間までは母犬の側で育てることで、健康になり情緒も安定する。

Ｂ．繁殖管理人による厳しい監視

１．繁殖管理人は、繁殖をさせても良い成犬にのみ許可をおろします。すべての交配申し込みはこの許可を得ることが必要です。
　　　　　　
　　繁殖許可をもらう手順としては、まず以下の書類を提出します。

　　
　　１）犬がクラブの血統書を持っている証明書。
　　２）クラブ所属の繁殖しても良いかの決定権を持つ＜繁殖裁判官＞の２名がその成犬に
　　　＜大変良い　＞という健康状態の成績を出すこと。
　　３）　関節の病気（ＨＤ，ＥＤ）がないかどうかを示すレントゲン写真とその数値。
　　　　（数値の見方は下記の図３を参照）。
　　４）1年以内に行った目の検査表。
　　５）犬の性格テスト。
　　６）交配に使ってもいい条件をすべて揃えているかどうかを証明した獣医師の診断書など。　

　　これらの書類を　繁殖業者がクラブに提出した後、繁殖管理人が実際に業者のオリを見て、その結果をドイツ犬生態協会に提出してから、はじめて繁殖の許可が降ります。

２．繁殖業者が住所を移転した場合はもう一度施設の実地検査をしてから、確認を取ります。犬の所有者が変わった場合は、犬とその犬に付いている血統書が同じままに保たれる様、監視します。オリが増えるときも、オリが適切かどうかを見に来ます。

３．繁殖管理人は、繁殖業者への＜抜き打ち立ち入り検査＞が出来る権利を与えられています。

４．繁殖管理人は、犬の繁殖記録の管理責任者です。

この繁殖記録には　生まれた子犬の数、死産の数、安楽死させなくてはいけなかった数、出産が帝王切開産だったか、子犬の遺伝性疾患が出たかどうか、子犬の強度と質度、生まれた子犬のマイクロチップ番号、ワクチン接種状況やオリの状況などが細かく記入されます。　この記録は犬の長い世代間に渡って記録されなければいけないとされ、繁殖管理人は、その後、生後50日まで子犬を監視し、最後に、この繁殖記録のコピーを繁殖業者に手渡して、任務を終了とします。繁殖業者の良し悪しは、オリの状態と子犬の出来を基準に判断されます。

　2010年よりＥＵ内ではすべての純血種の犬はマイクロチップを入れることが定められています。

　繁殖禁止令は　繁殖管理人とクラブ側で決定して出され、それに不服な繁殖業者は、14日以内にクラブ会長に異議を申し立てることができます。繁殖禁止令の後に、また繁殖を始めるときは、クラブの手数料が2倍になります。


子犬たちはじゃれあいながら、仲間や群れの中での生き方を学ぶ（社会化期）

Ｃ　クラブの役割
　　　　　　
　　クラブは血統書を作り、保管します。繁殖管理人はいつでもそれを見ることが出来ます。　繁殖管理人の作る繁殖記録とは別に、もう一つの記録を作って保管します。



子犬たちは、母親やきょうだい、そして人（飼い主）とふれあいながら信頼関係を育んでいく

Ｄ　交配についての規則

１．交配に使われるすべての犬の＜交配許可申し込み書＞は　繁殖管理人から、クラブを通って、ドイツ犬生態協会に渡り、最終決定を下されます。

２．メス犬の場合　　
　　交配できるのは　生後20ヶ月以上8歳までで、出産は１年に1回の割合として、出産回数は最高5回まで。そして2回の帝王切開産をしたメス犬ははずすこと。

３．オス犬の場合　　　
　　　交配に使っていいのは　生後13ヶ月からのオス犬。

４．交配に使ってはいけない犬
　それぞれの純血種クラブによって違うものが定められています。その理由は、犬の種類によって気をつけなければならない遺伝疾患が違うからです。ここでご紹介するのは、ゴールデンレトリーバーについて、このクラブから出されているものです。

A．陰睾丸、睾丸が欠けているもの
B．目のふちが内側になっているために睫毛が目に入る病気を持っているもの。
　　下の瞼が下に垂れ下がる病気のもの。
　　進行性網膜萎縮（PRA)の値の悪いもの。
　　白内障の値の悪いもの。
C．歯並びの悪いものは駄目。
　　歯が少ないものは許可するが、犬歯を含む上下の前歯が全部揃っていること。
　　歯が大き過ぎるのも駄目。
　　歯が大きすぎて　あごの曲がったものも駄目。
Ｄ．上あごあるいは下あごが飛び出すぎているのも駄目。
Ｅ．体の大きさが　標準より２ｃｍ以上違うもの。
Ｆ．銃声に特に弱いもの、おびえている犬、凶暴な犬、
　　生まれつきの盲目、難聴、てんかん、色素のないもの、
　　鼻の下が割れているもの、口の中が割れているものも、駄目。
Ｇ．体の骨が　曲がって育ったもの。
Ｈ．股関節形成不全（HD)の値が　Ｄ1より悪いもの。（図３参照）
Ｉ．ひじ関節形成不全（ED）の値がＩＩとＩＩＩのもの。（図３参照）

図３　　関節の病気の査定の仕方　　　　

病気の状態

HD

ED

病気なし

Ａ１,　Ａ２　又は０

０

疑いがある　良いの限界

Ｂ１,　Ｂ２　又は１

ＧＦ

軽度

Ｃ１，Ｃ２　又は２

Ｉ

中度

Ｄ１，Ｄ２　又は３

ＩＩ

重度

Ｅ１,　E２　又は４

ＩＩＩ

　　　これらの病気に厳しい規制があるのは、遺伝子の研究が進んで下記の結果を表したためです。

図４　　病気を持つ遺伝子を（n）とし、健康な遺伝子を（N）と示します

父犬か母犬

父犬か母犬

生まれてくる子犬

病気（nn）

健康だが病気の遺伝子を持つ（Nn）

50％病気（nn）
50％健康だが病気の遺伝子を受け継ぐ（Nn）

病気（nn）

とても健康（NN）

100％健康だが病気の遺伝子を受け継ぐ（Nn）

健康だが病気の遺伝子を受け継ぐ（Nn）

健康だが病気の遺伝子を　受け継ぐ（Nn）

25％病気（nn）
25％健康（NN）
50％健康だが病気の遺伝子を受け継ぐ（Nn）

健康だが病気の遺伝子を受け継ぐ（Nn）

とても健康（NN）

50％とても健康　　（NN）
50％健康だが病気（Nn）

Ｊ．近親交配は　クラブがその犬に1回だけ特別に許可を出す場合があるが、普通はしてはいけない。

　これらの純血種クラブの血統書付きの子犬たちは、遺伝疾患が出ることがほとんどなくて、性格も良いとのお墨付きで、価格が高い割りにとても人気で、母犬が妊娠していないうちから予約が入ることもしばしばです。（ゴールデンレトリーバー子犬1匹1200～2000ユーロ（約141,600円～約236,000円くらい）

　子犬の下見見学は、生後3週間までは母犬子犬共々邪魔するべきではないとして、普通生後4週間から始まります。

⇒ゴールデンリトリバークラブ

ラブラドールクラブの繁殖規制

ラブラドールクラブ（登録法人）は、1984年に設立され、2700人の会員を有しています。

このクラブでは、犬の繁殖許可申し込み申請時に必要なもので、ゴールデンレトリーバークラブとは異なる点は以下のようになっています。
　　　　
１．股関節形成不全（ＨＤ），ひじ関節形成不全（ＥＤ）がないか、麻酔をした状態でのレントゲン写真を提出しなければなりません。レントゲン写真の鑑定は協会とは無関係のギーセン大学の獣医学部に依頼します。

２．進行性網膜萎縮（ＰＲＡ）はドイツの会社Laboklin　GmbHが血液検査で分かる方法を始めています。＜PRA-prcd-Gentest＞

１と２のデータを含む繁殖犬全部の情報、繁殖管理人がつけた繁殖記録（前記Ｉ－Ｂ－４参照）は、クラブのホームページで常に公開しており、繁殖業者が自分の犬の交配相手を探すのに、良い基準となっています。

３．性格テストの基準を示しいます。これは生後6ヶ月～9ヶ月で行われます。
　　　　Ａ．性格が心地よく、好ましいかどうか
　　　　Ｂ．飼い主と犬との絆が深いかどうか
　　　　Ｃ．大勢の人の中に入れたり、狭い中に入ったりしても大丈夫か
　　　　Ｄ．目と耳がどの位の刺激に耐えられるか
　　　　Ｅ．物を持ってくる、獲物を捕まえる、感知能力があるかどうか
　　　　Ｄ．（狩猟の）銃声に十分強いか

⇒ラブラドールクラブ

その他の純血種クラブ　

　その他の純血種の犬のクラブについて、ほんの一部ですがご紹介します。繁殖規制は犬の種類によって違うので、各クラブのＨＰの中のZuchtordnungをご覧下さい。

犬種 クラブ（すべて登録法人） ホームページ

ビーグル犬ドイツビーグルクラブ www.beagleclub.de

チワワチワワクラブ www.chihuahua-club.de/

柴犬ドイツ柴犬クラブ www.shiba-inu-club.org

柴クラブドイツ www.shiba-club.de/

プードルドイツプードルクラブ www.pudel-klub.de/

シーズー国際シーズークラブ www.shi-tzu-club.de/

ダックスフントドイツテッケルクラブ１８８８ www.dtk1888.de/

ヨークシャテリアドイツヨークシャテリアクラブ www.yorkshire-terrier-club.de/

ヨークシャテリアのためのクラブ www.clubfueryorkshireterrier.de/

ドイツにおける犬の繁殖の問題点　

　ドイツでは現在、以下のようなことが問題とされています。

１．外国から来る子犬たちがワクチンもろくに受けておらず、純血種であっても、血統書なしに遺伝疾患や近親交配など何の規則も配慮もなく繁殖されて、それが安い価格で売られていること。（このようなゴールデンレトリーバーは、１匹250ユーロ、約29,500円）
　
２.外国から犬が運ばれてくる際に病気になることが多い。

３．外国から助け出されてきた子犬たち、外国より国内に捨てに来られた小犬たちは、生後8週間よりも幼い場合が多く、突然動物の家がワクチンなどの医療費で経済的に苦しくなること、その飼育に追われること、子犬にとって母親のいない心の隙を埋めるのに必死にならざるを得ないこと、などが挙げられます。

　ドイツ動物保護同盟では　ドイツ犬生態協会と共に、外国から輸入されてくる子犬に対する法規制の最低基準を検討している最中です。

＜参考文献＞
Deutsche Tierschutz-Hundeverordnung　　ドイツ動物保護法　犬の政令
Federation Cynologique Internationale　　Reglements　　国際畜犬連盟　F.C.I.による国際繁殖規制
Verband fur Deutsche Hundewesen e.V.　VDH　Zuchtordnung　ドイツ犬生態協会(登録法人)の繁殖規制
Golden Retriever Club e.V.　Zuchtordnung　　ゴールデンレトリーバークラブ（登録法人）の繁殖規制
Labrador Club e.V.　　Zuchtordnung　　ラブラドールクラブ（登録法人）の繁殖規制

　

※1ユーロは118円で計算しています。

【ドイツからのレポート　その１】犬猫の殺処分数ゼロ、殺処分施設もゼロ

【ドイツからのレポート　その２】犬の繁殖業者にかけられる法律

【ドイツからのレポート　その３】犬種団体と繁殖の規制

【ドイツからのレポート　その４】犬との共存のために

　
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