南紀白浜アドベンチャーワールド

ゾウの「調教」虐待事件

さる１月28日、ＴＶの報道で、和歌山県白浜町にあるアドベンチャーワールドのアフリカゾウ「ピコ」に対する暴力的な「調教」のやり方、そして最後に死なせてしまった出来事が報道されました。この事件を通して、改めて動物園の存在とは何かを問い直したいと思います。

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　ゾウは本来、母系の集団で暮らすとても社会的な動物で、人間に飼育された場合は飼育係と深いきずなをむすぶ動物だと言われます。しかし、アドベンチャーワールドでは、20年もゾウの飼育をしていた飼育係を別の部署に移動させ、いうことをきかなくなったゾウに対して驚くべき暴力的な「調教」を始めたのです。その調教というのは、長時間、４つの足を鎖でしばる、先のとがったヤリで突く、餌を減らすなど、動物を力づくて服従させようというものでした。

　しかし、暴力による支配は、また新たにさまざまな問題を引き起こすものです。暴力的な「しつけ」「調教」（虐待）は、動物の心身に大きなストレスを与え、さまざまな異常行動を引き起こす原因にもなります。

　暴力で従わされている状態は、不安、怒り、憎しみ、悲しみなどの否定的な情動を伴い、心身の苦痛をもたらすものです。そのような状態におかれた動物が、健康で生き生きとしていられるはずがないのです。それは人間の場合でもまったく同じ事だと思います。ゾウの仲間ともうまくいかず、管理者である人間からは暴力を受け続けていた大人のメスのゾウが、どうして一人ぽっちで生きていけるでしょうか。

●動物園業界への疑問

　テレビで放映された暴力的な「調教」のシーンは、視聴者に大きな衝撃をあたえました。放送直後から、同園には全国から抗議の手紙やＦＡＸが殺到したばかりでなく、視聴者の地元の動物園にも問い合わせなどが多数寄せられたとのことです。

　動物園は「動物愛護」の教育施設であるとされていますが、そこでこのような暴力・虐待が行われていることは、ますます動物園の存在自体を疑問視させるものです。

　動物園の業界団体である日本動物園水族館協会の対処の仕方も、ひどいものです。協会の理事会でこの件を取り上げたものの、「適切な調教で問題ない」とし、「問題なのはこのような内部告発を許した運営体制だ」として、いっそう、飼育担当者に対する管理強化を促したもようです。協会には倫理規定があり、倫理委員会もありながら、内部関係者だけで構成する形式的なものにすぎず、なんら機能していません。

　ピコに対する虐待事件は、実は、動物園業界に対する疑問と抗議でもあったのです。多くの人々の問いかけにまともに応えようとしない動物園業界のこのような体質は、ますます一般の動物園離れを加速させるだけのものとなるでしょう。

●時代遅れの動物園

　入場者に依存する動物園は、一般の人々の支持がなければ存続し得ない施設です。動物の保護や福祉に関する意識が高まっているイギリスをはじめとするヨーロッパ諸国では、動物園団体自らが、法律の制定を要請してきました。英国の動物園免許法は１９８４年に施行され、第三者機関による査察が行われ、基準にみたない施設は許可が取り消しになる仕組みです。この法律は２０００年に、より動物の福祉を強化した新動物園免許法に改正されました。

　ＥＵでは、この英国法にならって、２００２年から動物園指令が施行され、各国は動物園の査察と認可を定めた国内法を制定しなければならないことになっています。

　動物の個性や、種としての習性や生態に配慮した飼育方法や、施設の環境改善を進めることが、いまや先進国の主流となっています。日本のみ、いつまでもこのような時代遅れの暴力的な「調教」や、劣悪・貧弱な施設のままでいいはずがありません。私たちが声をあげない限り、動物園が中から変わるということは、ありえないのです。

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